兄
「よ。頑張ってるか青少年」
あまりにも軽い呼びかけ。しかし聞き覚えのあるそれに、青年は嫌々ながらも視線を向けた。
にやにやと笑いながら見ているのは予想通りの見知った顔。
赤茶の髪と同色の口ひげを生やした男性は、青い棒を持っていないほうの手を軽く上げて近寄ってくる。
「何の用だ」
「単に見知った相手に顔出しに来ただけだ。精が出るな」
男性の視線は青年が持つ大剣に向けられている。
青年が彼になす術もなくやられたのはほんの数ヶ月前。
くやしいが、いつか越えてやろうという目標が出来たことは嬉しく思っている。
絶対に話さないが。特に本人には。
特訓を見られてしまって苛立つ彼に対し、男性はのほほんとした表情で言葉を続けた。
「まあ、まったく用事がないって訳じゃあないが」
「あ?」
嫌な予感がする。構えたままだった剣を降ろして男性を見れば、楽しそうな――悪戯好きな悪がきのような――顔をして彼は言った。
「ちょっとばかり家に連れて行こうと思ってな」
「は?」
疑問の声に明確な返答はなく、あれよあれよという間に事は運び、気づけば青年は男性のいう『家』に連れて行かれた後だった。
男性=カシウス。青年=アガット。「アガットがブライト家にお持ち帰りされていたら?」という設定のパラレルです。
この設定を「ばっちこい」という方のみ、下記からお入りください。
10題「兄」【 配布元:VOID】