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兄1~3

兄となった日

 なんでこんなことになったんだ。
 こみ上げてくるため息を押し殺してアガットは思う。
 気づいたらロレントの街に連れて来られているという強引さが気に食わない。
 戻ろうにも金がないというのがまた悔しい。
 いっそ歩きで帰ってやろうかとも思うが――
 ちらと前を悠々と歩くカシウスの姿を見て考える。
 『遊撃士』になるという目標。それを成すにはカシウスに教えを請うことが近道だということは分かっている。
 が、正直いただけない。
 単純に反発してるだけだという自覚はあるが、性分なので仕方ないだろう。
  悔しいことに見習うべきことは多い。近くにいれば技術を盗むことだって出来る。
 メリットがあることは分かっているが、素直に従いたくない。
「もうすぐ着くぞ」
 街門を出てわき道にそれるあたりで声をかけられたが返答はしない。
 なんと答えて良いか分からないといったものもある。
 それでもちゃんとついてくるのだから、素直じゃないけれど素直な彼にカシウスは苦笑したことなど無論知ることもなく、ブライト家にたどり着いた。
 木々に囲まれこじんまりとした家。
「いいとこに住んでんな」
「だろ?」
 思わず出た感想に嬉しそうに返されて、またアガットの眉が寄る。
「今日は移動で疲れたろ。とりあえず中に入って」
「あーッ」
 カシウスの言葉を遮ったのは甲高い子供の声。
「おとーさん、おかえりなさい!」
 声と共に小柄な影が突撃してくる。カシウスは影を難なく受け止めて、嬉しそうに笑う。
「お、今日も元気だなエステル」
「モチのロンよ!」
 朗らかに笑う子供。年は十歳にもなってないだろうか。
 カシウスと同じ色の髪を頭の両脇で結わえた子供に、別の影が重なった。
 ――お兄ちゃん。
 知らず、右手でペンダントを掴む。石の冷たさと強く握った痛み。
「あれ?」
 不思議そうな子供の声ではっとする。
「なんだ」
「だれ?」
 ぎろりと睨んだのに子供は物怖じせず好奇心いっぱいの目で見上げてくる。
 カシウスはアガットに視線をやりつつ、子供の頭にぽんと手を置いた。
「こっちはエステル。娘だ」
「はじめまして」
 躾けられているのだろう。子供はぱっと笑って挨拶する。
「エステル。こっちはアガット。
 今日からしばらく家に住むことになる」
「ふーん」
「な」
 ふざけるなというアガットの訴えは聞き流され、カシウスは娘の背を押してさっさと家に入っていった。

ファーストコンタクト。
この頃のアガットはFC以上にトゲトゲしていることでしょう。相手が相手ですし。09.04.19

我慢

 パタンと妙に軽い音を立てて扉は閉ざされた。
 詳しい話は夕食時にするから、それまで休んでおけと押し込まれた部屋。
 物置として使っていたと言っていたが、なら何故すでにベッドがおいてある?
 おまけにシーツまで清潔なものになってるんだ。
「あのおっさん……っ」
 思わず口から呻きが出るのは仕方ないだろう。
 ちょっと思いついた、くらいの時間でここまで用意を済ませるなんてことは普通ないだろう! 最初っからしくんでやがったな!
 ふるふると怒りを抑えていると、随分元気の良いノックの音がした。
「ごはんできたよー」
 返事も待たずに開けて、にこにこと笑う子供。
 反射的に顔をゆがめてしまうのは――仕方ない。
「あ、ああ」
 早くと急かす子供について一階に下りる。
 ――子供は、嫌いだ。何も出来ない子供は。
 胸元の石をきつく握り締める。
 百歩譲って、カシウスに連れて回られるというのなら、まだ良かった。
 あんなガキがいるところに、居たくない。
 とりあえずメシを食ったらどうにかして逃げるしかないかと考えつつアガットは階段を降りきって……信じられないものを見た。
 深めの皿によそわれるシチュー。
 それだけなら、別におかしくない。おかしいのは、それをしているのがカシウスだということ。
「おとーさん、あたしのもうすこし」
「なんだエステル。父さんの料理がそんなに食べたいのか?」
「だっておなかすいてるんだもん」
「素直に食べたいといってくれよ」
 ……微笑ましいといえなくもない親子の団欒だが、何故カシウスが?
 給仕する姿が似合わないというわけではない。
 これもまたおかしいことに、ばっちり似合っている。何故だ。
「ん? どうした不良青年。はやく席に着かんか」
「ふりょーせーねん?」
「要らん言葉教えてんじゃねぇ」
 ぐらぐらと揺れる頭を抑えて席につくアガット。

 そうして、ブライト家での初の食事が進んでいった。
 ちなみに味はそう悪くはなかったことが、またアガットの気を重くさせることになる。
 逃げようという意志をおもいっきりくじかれた彼は、結局言われた部屋に戻って横になっていた。
 『準遊撃士になるまで、この家で生活する』こと。
 それが夕食の席で出された『提案』。
 遊撃士になるための基礎を教えると言うことだろう。
 明確に区切られたわけではない『期間』はアガットの努力次第で短くも長くもなる。
 ほんの少しの間だけ我慢をするか否か。求められているのはそういうことだろう。
 仮に否と言ってみても、別の方法でちょっかいをかけられるような気もする。
 上手くカシウスにのせられている気もするが、かといって口で勝てる自信もない。
 だが――
 思い出すのはあの子供。
 一緒に暮らすなんて冗談じゃない。明日の朝一番で出てってやる。
 決意するアガットだったが、そんなことは甘い考えだったと、翌朝早くも思い知ることになる。

逃げる気だったアガットですが、無論カシウスがそんなこと許すわけもなく。
エステルは「お客さんが来た」とだけ思ってます。今のとこ。09.05.03

年功序列

 翌朝、早くもアガットはくじけそうになった。色々なことに。

 一階に下りると、子供が一人でつまらなそうに食事をしていた。
 向かい合う席にも食事は用意されているが、カシウスの姿はない。
 なんだ?
 訝しく思っていると、子供が顔を上げた。
「おはよー」
「……はよ」
「ごはん、おいしいよ」
 ぱくりと頬張りながらの言葉を無視して問いかける。
「おっさんはどうした」
「おとーさん? おしごと」
「はぁ?!」
 仕事だと?
 あのおっさんは、自分の子供を放って仕事に行ったっていうのか?
 レイブンの元リーダーとして恐れられていた自分を残して?
 いや、子供に暴力を振るったことはないが。
「いつ戻ってくるって?」
「わかんない」
 首を振って答えた子供は、握っていたスプーンを置いてアガットに問いかけた。
「たべないの?」
 問われれば、空腹を思い出す。
 それに、たった一人で食事をする子供を無視するのも……
「食う」
 機嫌が悪そうながらも食卓につくアガット。
 その様子を見てエステルは笑う。
 ――たった一人でする食事は味気ない。
 エステルが食事を終える頃にはアガットも大半を食べ終わっていた。
 朝食だから量が少なめだということと、食事のスピードが違うこともある。
「ねぇねぇ」
「あ?」
 視線を上げれば、向かいの席から身を乗り出すようにして子供がこちらを見ている。
「なんのむしがすき?」
 問いかけられた言葉に、一瞬気が遠くなる。
「む……し?」
「むし! おおきいの? はねがついてるの?」
 何故に虫?
 このくらいの女の子は、大抵嫌がるもののはずだ。
 少なくとも、妹は苦手だった。
 アガット自身は虫といえば仕事の――果樹の育成には必要(受粉とか)だけど、害も出す邪魔なものもいるといった感じだが。
「てんとうむし? だんごむしは? ちょうちょのほうがいい?」
 虫が好きだと疑っていない様子の子供に、どう反応したものか。
「あ、うたがってるな! むしとりのうでいいんだぞ!」
 生まれる性別、間違えたんじゃねーかとは口に出さず、ぎろりと睨む。
「うるせぇ。家ん中で大人しくしてろ」
「まってろ! しょーこをもってくるから!」
 言うなり、子供は椅子から降りて階段を忙しく上っていく。
 やっと静かになったと思うものの、『証拠』とやらが何か気になる。
 ガキはおとなしく言うこと聞いてりゃいいものを。
 自身が思ったことなのに、脳裏によぎったのは別の影。
 暴れるアガットたちの顔色を伺いつつも、影では偉そうにふんぞり返っている『大人』。
 あんな大人にはならないと思っていたのに……あいつらが言うようなことを思ってしまった自分が憎らしい。
 年上だ、ということだけで偉そうにしている奴らと同じになりたくない。
 だから年齢を理由に言うことを聞かせるのではなく、別の方法をとる必要がある。
 脅せば言うことを聞くような相手でもないし。
 ……おっさんの子といえば納得できる。
 挑戦的な笑みで両手に何か――虫取りの上手い証拠といっていたから、標本だろうか――を持って降りてくる子供を見つつ、アガットはため息を押し殺した。

遊んでくれる人と認識by.エステル。
似てることは似てると認識by.アガット。09.05.10

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