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ソラの在り処-蒼天-

【第二話 邂逅】 1.旅立ちの小道

 気合と共に一閃。
 呪詛のような悲鳴を残して、最後の一体が地に伏せる。
 待つこと数秒。動かないことを確認して、セティはようやく息を吐いた。
「終わったあぁ」
 かすかに、息をはくほどの大きさで紡がれた言葉。
 一部始終を見ていたクリオはほんの少し息を吐いた。
 筋は悪くはない。だけど……まだまだね。
 先ほどの戦闘、セティの初陣の様子を見てのことである。
 リカルドは意外に戦いが出来る。
 ブラウは……セティより下。
 まあ彼の強みは回復魔法だから、旅の間に鍛えればいいだろう。
「いやー、姐さん強いねぇ」
 にこにこ笑いながら寄ってきたのはリカルド。
 彼の獲物は小ぶりのダガー。両手に一本ずつを逆手に持って扱っていた。
 並みの技量では出来ないことだ。
「あら。褒めても何もでないわよ?」
「クリオって本当にすごい!」
 おっとりという彼女に、興奮しながらセティは言い募る。
「クリオの剣ってわたしのと比べ物にならないくらい重いのに、あんなに自由に操ってるんだもん」
「鍛えればセティだって同じよ。
 でも、自分にとって扱いやすい……相性のいい武器が一番だけどね」
「うんっ」
 姉妹のような微笑ましいやり取りを沈黙のままに見守るのはブラウ。
 少し面白くなさそうな顔をしているのは気のせいだろうか。
「でさセティ。今からどこに行くの?」
「え、あ、うん。最初はレリギオだよ」
「レリギオぉ?」
 不機嫌な声はブラウのもの。苦手意識のあるセティはちょっと嫌そうに眉をひそめるものの、文句があるかと言い募る。
「なんで嫌そうな顔するのさ。
 ソール教の聖地だよ? ブラウはソールの神官だよ?」
「わあってる」
 反論されて、ブラウはなぜか舌打ちをしてそっぽを向く。
 何故だろう? 普通の神官なら喜ぶところじゃないだろうか?
 あ、そーか。ブラウは普通の神官じゃないもんね。
 一人納得してセティは他の二人に説明する。
「あのね。『魔王(シャヨウ)』が宣戦布告してきたのがレリギオだから、最初に話を聞きにいきなさいって王様が」
「ふぅん。そーいえば、未だに魔王がどんなのかって話は聞かないよね」
「うん。みんなを混乱させないためだって聞いた」
 魔物の動きが活発になって来たころに、シャヨウからの宣戦布告はなされたらしい。『らしい』というのは、すべてがレリギオのソール教会によるものだからだ。事実何があったかは、神殿のもの以外知りはしない。
 神殿の発表を、疑いなく信じるものが多数を占めるが、中には疑ってかかるものもいる。このパーティで言えば、前者がセティとブラウ。後者がクリオとリカルドだろう。
「レリギオには一度行ってみたかったんだぁ」
「あら。セティの家は熱心な教徒なの?」
 わくわくと言うセティに問うクリオ。
 しかし彼女は笑って首を振る。
「ううん。実はあんまり。
 父さんって他の大陸の人だから、宗教が違ったんだ。
 でもさ、レリギオのアルカって言えば、あの『勇者ノクス』が魔王討伐の任務を受けた場所だよ? アコガレと同じ場所に立てるんだよっ」
「あー、セティってヒロイック・サーガ大好きそうだねぇ」
「うん大好き!」
 頬を紅潮させてセティは『勇者ノクス』について語る。
「勇者ノクスと戦士ユーラ、ソール教のラティオ司祭。
 『三人』で、セラータやレリギオを襲った魔王を倒したんだもん。
 すごいよねぇ。伝説になるよねぇ」
「一番有名なヒロイック・サーガだよね、それ」
「うん。でもね、いろんな説があって面白いんだ。三人で魔王を倒したことになっているけど、本当はもう一人魔法使いの仲間がいたって説とか、実は魔王は神様が人間の横暴を懲らしめるために遣わせた存在だとか」
「へー……」
 ため息つつ浸るセティ。リカルドは当たり障りのない反応しか返しようが無い。
 顔が少し引きつっていたりするのはご愛嬌だろう。
 まだ何か話そうとする彼女を留めたのは呆れが多分に含まれた一言。
「歴史上の人物だろ」
 勝手に架空の存在にするなと言うのはブラウ。
太陽神(ソール)から、俺らとは比べ物にならないくらい寿命をもらってんだろ?
 今も生きてるってんなら、魔王をさくっと倒してくれりゃあな」
「ああそっか! まだ生きてるかもしれないんだ!
 生きてるんなら一目でいいから会いたいなぁ」
 ほぅっとため息ついて、まるで恋する乙女のような反応にクリオは苦笑する。
「ほらほら。のんびりしていると日暮れまでに街に着かないわよ?
 時間が余ったら、セティの剣を見てあげれるのに」
「え、本当?!」
 クリオから剣を習えると聞いて、どこかに行っていたセティの意識が戻ってくる。
「いいの? クリオ教えてくれるの?!」
「セティが良かったら、だけどね」
「悪い訳ないよッ ありがとう!」
 ぱっと笑ってセティは足取り軽く先を行く。
 張り切ったおかげか、次の街には夕暮れ前にたどり着き、セティは思う存分クリオに鍛えてもらうことが出来た。

 冒険者の店の雰囲気は、そこの女将に良くあらわされていると思う。ルイーゼの店は居心地が良くて、ついつい比べてしまう自分にクリオは苦笑した。
「どしたの姐さん、いきなり笑ったりして」
 僕変なことしたかなぁなんて問いかけてくるリカルドに、ほんのり微笑んで首を振る。
「ちょっと思い出しただけよ。金の小鳥亭は本当に居心地が良かったなって」
「あー。確かに雰囲気良かったよね」
 僕はあの時初めて行ったんだけどと付け加えて、彼はコップを傾ける。その状態でしばし硬直した後、ゆっくりとコップを戻し、隣の女性に問いかけた。
「姐さんや、これキツクない?」
「あら、もしかしてお酒弱い?」
「どっちかといえば、そうかも。でもシードルってここまできついっけ?」
 味は悪くないんだ味はと言いつつも、リカルドはしかめっ面。
「残念ね。せっかく飲み仲間が出来たと思ったのに」
「うん。残念だから、別のでつき合わせてもらうよ」
 エールを注文してから、彼は困ったように本題を取り上げた。
「でも、どうしたもんだろうねぇ。ブラウ」
「そうね」
「すーぐセティにつっかかるんだもんねぇ」
「そうね」
「……姐さん、ペース速すぎやしないかい?」
「あらそう?」
 不思議そうな顔をしているが、カップにはすでにお代わりが入っている。
 ここのシードルは結構きつめだと思ってたんだけど。
 未成年二人はさっさと部屋に押し込めた(もちろん別室である)から良いにしても。……しばらくセティたちには酒につきあわせないほうがいいかも。
 そんなことを考えて、彼はふと苦笑を漏らす。
 『仲間』なんて、ずいぶん久しぶりに持ったなぁ。
 今回彼らについてきたのは、ひとえに『りっちゃん』に脅されたからといえる。
 彼女が持っていた剣を頂こうと思ったのが運のつき。
 あっけなく返り討ちにあって、官憲に差し出される代わりに使い走りにされた。
 彼女の意図は分からないが、この即席パーティは結構楽しい。
 ま、すぐに離れることもないよね。
 そんなことを思いながら、彼はエールのカップを傾けた。

 旅慣れていないセティたちがレリギオにつくのは、これから三ヵ月後のことだった。