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ソラの在り処-蒼天-

【第二話 邂逅】 2.太陽の祝福

 容赦なく照りつける真夏の太陽。
 故郷でも夏の日差しには少々辟易したが、ここのは比べ物にならないほど強い。
 汗が流れて止まらない……なんて状況は通り過ぎて、流れる前に蒸発していく。
「あ……つーい」
 建物の影に避難して、力なく訴えるセティ。
「レリギオって、こんなに暑いとこだったの?」
「ま、砂漠だからねぇ。仕方ないよねぇ」
 軽く答えているリカルドも、いつもの元気がない。
「アルカは太陽神(ソール)の力が一番強い場所だからな。
 そこに神殿を建ててんだ、当然だろ」
「うへぇ」
 やる気を削いでくれたブラウを恨めしく見るものの、彼は至って平然としてる。
 とはいえ、やせ我慢してるのは丸分かり。
 ブラウだってフリスト出身だし、それに昔から暑いの苦手にしてたよね。
 わたしより体力ないだろうし。
 そんなことを思い出しつつブラウを見ていると、がんばってるんだなぁと思う。
「なんだ?」
 視線に気づいたのかこちらを睨みつけてくるブラウ。
 少しは見直したけど、撤回。なんで見てただけで睨むのさ。
「べぇーつにっ」
 ふいと顔を背けたセティに再びブラウが口を開きかけ、その頭が小突かれる。
「とにかくさー。ここにいても暑いままだし、とりあえず宿とろうよ。
 ねぇ姐さん?」
「そうね。水も補給しなきゃ」
 けんかは却下とばかりに年上二人に睨まれて、ブラウも顔を背ける。
 ただし、こちらは舌打ちつきで。
 そんな様子を見て取って、保護者二人はそっとため息をついた。
 日差しのきつい午後にもかかわらず、道を行く人の数は多い。
 どこの店にしようかと相談しているクリオたちを声を聞き流しつつ、セティはぼーっと人の流れを見ていた。
 あちこちの路地で自分たちと同じように影に入って休憩している人の姿を見かける。それに、旅装の人が多い。
「なんかあるのかな」
「あるから多いんだろうが」
 呟いた言葉に、意外や答えが来た。とても皮肉な口調で。
「結構重要な祭りだぞ」
 知らなくて悪かったなと睨むものの、肝心のブラウの視線はこちらを向いておらず。淡々と事実のみが述べられる。
「夏至祭はフリストでは大々的には行われてないからな」
「へー」
 聞き流す気満々で、それでも相槌だけは返すセティ。ふたたびブラウの雰囲気がとがるのを見越してか、またもリカルドが割って入った。
「一年で一番日の長い、つまりは太陽の力が強い日だからね。
 太陽神(ソール)としてはお祝いしなきゃでしょ」
「それでどんなことするの?」
 お祭りということで、どんな楽しいイベントがあるのかと目をきらきらさせて問いかけてくるセティ。実際詳しいことは知らないのか、少しぎこちない動きでリカルドがブラウに視線を寄越す。
「……ただ一日中祈りを捧げるだけだ。
 まあ、当日だけは誰であろうと大神殿の礼拝堂に入ることが出来るからな。
 信者は死ぬ前に一度は参拝しておきたいっつーとこだ」
「あのさ、何度も聞くようだけど、ブラウって一応神官だよね?」
「どういう意味だ」
 流石にそのままの意味ですとは言えずに、セティは視線をさまよわせ。
「あれ?」
 ふと視線を向けた人通りに、どこかで見た姿があった気がした。
「どういう意味だ、セレス」
 さらに機嫌を損ねたらしいブラウの声に、反射的に答えるセティ。
「どうもこうもないよブラウのおこりんぼ!」
「何だ」
「あーもうこんな道端でけんかしない!
 ほら姐さん呼んでるからッ 姐さーんっ」
 迷うことなくブラウの首根っこを引っつかみ、強制的に移動させるリカルド。
 案の定ブラウは抗議の声を上げて、あたりから痛い視線を食らう。
 もう一度セティは視線を人波に戻す。
 通り過ぎてしまったのか、目当ての人物はいない。
「気のせいだったかな」
 あのときの失礼な奴が確かにいたと思ったのだけど。
 まあいいか、会いたくもないし。
 そうして、セティは二人の後を追った。

 夏至祭前……最大の観光シーズンと言えなくもないこの時期に、宿を取るのはかなり大変だった。
 それでもなんとか拠点を確保して、セティたちは翌日の予定を軽く話し合った。
 結局、法王に会うには時間がかかるかもしれないが、まあとにかく行ってみようという事で大神殿まで出向くことになったのだが。
 かしゃんと澄んだ音を立てて、目の前で交差されるハルバード。
 よく手入れされているのだろう。呆然と、でも確実に青ざめているセティの顔を、刃はまるで鏡のように映していた。
「な……にするんだよっ」
 ばくばくと脈打つ心臓を必死に宥めつつ怒鳴るセティに返されるのは、刃と同じく冷たい言葉。
「本日は太陽神の夏至祭」
「何人たりとも、邪魔は許されぬ」
 そうやって、なす術もなく衛兵に追い返されてしまった。

「ブラウのうそつきっ 何が皆会ってくれるだよ!」
「しらねえよ! オレはじーさんからそう聞いたんだ!」
 ぎゃいぎゃい騒ぎつつ来た道を帰るセティとブラウ。その後ろに少々居心地が悪そうなクリオとリカルドが続く。
「でも、どうしようか。
 『勇者』として旅立ったら、まず法王に会わなきゃいけないんだよね?」
「そういうわね。まあ『勇者』を立てているのはフリストだけじゃないし……」
「確かセラータ、ツァイト、それからヘオスの『勇者』が認定されてるんだよね、今。各国が協力して魔王退治したほうが効率いいんじゃないかなー。
 って僕は思うんだけど」
 ま、そんなことできないよねと付け加えつつごちるリカルド。
 クリオにしてもそれは一度は思ったことだ。
「それはともかく、そろそろけんかは止めなさい。
 明日なら謁見もできるでしょう」
「そうかもしれないけどさー」
「セティ。暑くて気が立っているのね? でも、落ち着かなきゃあ駄目よ?」
 まだ物言いたげなセティに優しく、でも視線は厳しく言い含めるクリオ。
 よっぽど怖かったのか、彼女はただこくこくと頷く。
 たまたま彼女たちを見ていたブラウも少し顔を引きつらせているあたり、見えない位置にいてよかったと胸をなでおろすリカルド。
 そうして騒がしい二人が静かになると、先ほどまでは気に留めなかった周囲の声が聞こえてくる。
「せっかくアルカに来られたのに……」
「今年は中止だなんてねぇ」
 残念そうな口ぶり。自分たちと同じように道を戻る人々は皆一様に不満そうだ。
「急に中止になった……のかな?」
「みてーだな。なんかあったのか?」
 うそつき呼ばわりは早計過ぎたかもしれない。
「あの、さ。ブラウ」
 謝るべきかと悩み、少し前を歩くブラウに話しかけようとセティが顔を上げ。
「あ!」
「なんだ?」
 振り返りつつ返事を返すブラウ。
 少々不機嫌なのは、いきなり声を上げられたせいかも知れない。
 しかしセティは彼の言葉に返事をせずに、リカルドを手招きする。
「ね、ね、リカルドっ」
「ん? どうかしたの、セティ」
「あれ見てあれ!」
「あれ?」
 そんなに背の高くない彼女が必死に前を指差す。
 しかし言われて目をやっても、見えるのは人波ばかり。いや……大神殿から引き返す人々を縫うように、こちらに向かっているものが数名。
「あー、やっぱり知らないで行っちゃう人いるんだねぇ」
「それもそうだけど、そうじゃなくてッ もっとよく見てよ!
 一番後ろにいるのあいつだろ!」
「あいつ?」
 何に怒っているのかわからないままに、もういちどよく見てみるリカルド。
 こちら側……神殿に向かっているのはどうやら四人。
 先頭は黒髪の戦士風の男性。ずいぶん顔つきが厳しい。
 単純に日差しが眩しいせいかも知れないが。
 次はフードをかぶった鳶色の髪の女の子。セティより一つ二つ下といったところだろうか。こちらも少々緊張した顔つきをしている。
 そして、先頭を行く戦士にどことなく面立ちが似ている黒髪の男の子。
 アルカは初めてなのか、先ほどのセティよろしく、ものめずらしそうに左右に視線を配っている。
 四番目。
 セティが言っていたのはこの子だろう。フードをかぶった小柄な人物。
 人波に飲まれそうなくらい小さいのでどうにも見づらい。
「あいつって言われても、よく見えないよー」
「だから、あいつだってば。えーと、確か『りっちゃん』とかいう!」
「りっちゃん?」
 彼がセティと旅をする理由になった少女の名に、もう一度リカルドはそちらに視線をやる。先ほどよりも距離は縮んでいたが、それでも人が邪魔で見えにくい。
 だけど、ほんの一瞬見えた顔は。
「あ、ほんとだ。りっちゃんだ」
「だろ!?」
 何か用があったのかなぁなんて気楽なリカルドに対し、セティは憤慨したように言う。
「あいつ、何でこんなとこうろうろしてるんだろ」
「別に誰がうろついてようと良いだろが」
「それはそうかもしれないけどさ」
 父の墓の前で吐かれた暴言の数々を思い出して怒っているとは言えずに言葉を濁すセティ。
 ブラウの言うとおり、確かに『りっちゃん』がどこをうろついていようとセティには関係ないのだが。
 なんとなく、すっとしない。
 複雑な気持ちでセティは顔を上げて、そのまま固まった。
 先ほどからずっと見られていることで視線を感じたのだろうか。
 彼女をひたと見据える『りっちゃん』の紫の瞳。
 うわあ! 目が合ったっ
 視線ははずせぬままに、なぜか慌てるセティ。
 先に視線をそらしたのは『りっちゃん』の方だった。
「うわー、本当にりっちゃんだったねー。
 っていうかセティよくわかったね」
「一回しか会ってない奴をよく覚えてたな」
 どこか呆れたようなブラウの言葉に。
 だけどセティはいつものように反応しない。
 正しくは、ブラウの声なんて耳に入っちゃいなかった。
 何なんだよアレ。
 まったく何もリアクションなかった!
 いや、あったら良いって訳じゃないけどッ
 こんなところまで来て、会いたくない奴に会うなんてッ
「セティ、何に怒ってるのか知らないけど、立ち止まるとメイワクよ?」
 実際、かなり迷惑なんだろう。
 後ろから追い越してきた知らない人にすごい目で見られた。
「……うん……ごめんクリオ」
 湧き上がってくる何とも言いがたいもやもやを押し殺して謝る。
「わたし、あいつら追いかける!」
「ちょっと待った!」
 右足を軸に反転して走り出そうとしたところ、首根っこをつかまれた。
「何すんだよブラウ」
「お前こそ何言い出すんだ!」
 離せともがくセティに対し、頭痛をこらえるように返すブラウ。
「だって気になるんだ! 確かめるだけで良いから!」
「何を」
「良いんじゃないの? どうせ今日はやることないもの」
「クリオまで何言い出すんだ」
「あ、じゃあ僕も賛成ー。りっちゃんが何してるか気になるし」
「お前ら……」
 こうして一人反対に回ったブラウの意見は却下されて、一行は『りっちゃん』の後を追うことになった。