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受け継いだものは

D.コスモスを探して見つけてもらおう。

 なんでこんな簡単なことを思いつかなかったんだか。
 自分の頭の回転の悪さにため息つきつつ、アポロニウスは廊下を歩いた。
 そうだ。薄がいたんだからコスモスがいてもおかしくない。
 というか、コスモスがいるからこそ薄がいたわけだ。
 昨夜いきなり飲み会にと拉致られたことを思い出し頭痛がする。
 もしかしたら頭が働かないのはまだ抜け切っていない酒のせいかもしれない。
 ともあれ、今は彼女を探すのが先。
 弟の部屋にいないということは……
 今までの経験から、アポロニウスは食堂へと足を進めた。

 ざわつく食堂の隅で、案の定コスモスはのんびりと朝食をとっていた。
 その隣では二日酔いにはなっていないらしい薄が新聞を広げている。
「おはようコスモス、薄」
「あら、おはようアポロニウス」
「おはよう」
 主が見事な令嬢の微笑を披露する横で、従者は楽しそうに口をゆがめる。
「槐が『また飲もう』っていってたぞ」
「……当分は勘弁してくれ」
 アポロニウスの心の底からの言葉に薄はすんなり首肯して。
「分かった伝えておく。了承したと」
「おい」
 思いっきりいやそうなアポロニウスがおかしいのか、くすくす笑うコスモス。
 彼女の姿を見て、こんなことをしている場合じゃないと思い出す。
「悪いが、ちょっと見つけて欲しいものがあるんだが」
「わたくしに?」
 不思議そうに小首をかしげるコスモス。
 人目があるせいだろう。令嬢姿を崩そうとしない。
 ペースが崩れるのを自覚しながらも、それでも伝える。
「赤い勾玉なんだが……どこかで見なかったか?
 見てないなら見つけて欲しいんだが」
「赤い勾玉」
「いつも肌身離さず持ってたアレか?」
「ああ。脅されたわけじゃないが……いや脅されたのか。
 ちゃんと持っていないと何が起こるかわからない。
 持っていても起こるような気がするが」
 言ってて自分でもいやになるが、父のくれるものというのは大抵そういうものだった。
「アポロニウス。……それは何かいわくがありますの?」
「さあな。息子困らせて喜ぶような父親だったからな」
 半ばやけくそで言った言葉に、なぜか薄は満面の笑みでコスモスに向き直る。
「良かったですね公女。元カノのものとかじゃ無いみたいですよ」
「探しますけど……すぐに見つかるかどうかは分かりませんわよ」
 従者の茶々は一切無視で、コスモスは早速探し始めたのだろう。
 ここではないどこかを見るまなざし。
 そうしている姿を見ると、本当に彼女は近寄りがたい。
「公女にやきもち焼かせる作戦は失敗のようだぞアポロニウス?」
「無理やりそっち方面に話を持って行きたがるな」
 楽しそうな薄にげっそりと返す。
 人のことより、自分のほうを何とかしろ。いまだにオトモダチとしか思われて無いくせに。
 口に出してはいえないけれど。
 アポロニウスだって、恋愛経験が豊富とは言いがたい。
 旅から旅への生活を続けていたから……というのもあるが、いい雰囲気になったところで振られてしまったり(大抵は「二股かけるなんて最低」という言葉だった。たぶん師匠を見たんだろうと思われる)、例のハイ・エルフに邪魔された。
「赤い勾玉ですわね?」
 いやな沈黙は確認するようなコスモスの言葉で破られた。
「あ、ああ。見つかったのか?」
「ええ。中庭の……寮の近くの茂みに」
「悪いが案内してくれるか?」
 言葉だけでは正確な位置は分からない。
 アポロニウスの申し出にコスモスは席を立った。
「ええ。急いだほうがいいでしょうから」
「急いだほうがって……何か気になることでも?」
 薄の問いに、コスモスは多少まじめな顔で。
「光っていましたから」
 と、答えた。

 アポロニウスたちは大急ぎで赤い光を放つ勾玉を回収し、簡易な封印を施した。
 その足で師匠こと銀の賢者の元へ向かい、調べてもらったところ。
 この勾玉は内部に魔物を封じており、その魔物の命を削って護符としているものらしい。
 本当に、ずいぶんとえげつないものである。
 これが息子の身を案じて親が渡すものだろうか?

 死んだ人に罪は無いというけれど、悪く言いたくはないのも確かだけれど。
 本当にあの親はと思うことは止められなかった。

 おしまい。

EDは4種類あります。ちなみにシークレットはありません。
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