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受け継いだものは

B.誰かが見ているかもしれないから聞きに行ってみよう。

 部屋の中よりも、外で落としたかもしれない。
 そう。たとえばいつもの溜まり場とか。
 もう一度鏡をのぞいて、髪に軽く櫛を通してからアポロニウスは部屋を出る。
 いつもポケットに入れていたから、動いた際に落としたかもしれない。
 その可能性が一番高いのはシオンのところ。
 目的の部屋の前でノックをする。
「はーい、どなたっすかー」
「アポロニウスだ。入るぞ」
 名乗ってからドアを開けて、『彼』が止まりやすいように腕を上げる。
 軽い羽音とともにやってきた彼は、伸ばしたアポロニウスの腕に止まって小首をかしげた。
「おはようございますアポロニウスさん。
 珍しいッすね、こんな朝から来られるなんて」
「聞きたいことがあってな」
 瑠璃の言葉に苦笑で返す。
 確かに瑠璃の言うようにアポロニウスは朝からシオンのところを訪れることは少ない。
 逆に言えば、学校に行く面子はみな身支度を整えてからシオンの元を訪れる。
 彼らの朝は通学のバスの時間の都合上とても早い。
 場合によっては、朝ごはんの時間に食堂が開いてないときもある。
 そんな時は必ず一番広く、設備のいいシオンの部屋のキッチンで四人そろっての朝ごはんとなる。
 無論朝のそんな忙しい時間に、余裕のあるアポロニウスが来るはずもない。
 今日は学校が休みだから訪ねてみたのだが。
「シオンは……まだ寝ているか?」
「起きてますっすよー」
「瑠璃誰だー?」
 使い魔の声に続くように、廊下の置くからシオンの声が響いてくる。
 そのまま足を速めて大して長くない廊下を行き、アポロニウスは居間へ続くドアを開けた。
「おはようシオン」
「アポロニウス? おはよう」
「おはよう、珍しいな」
「アポロニウス君、おっはよー」
 部屋の主のほかに楸とカクタスがそろって出迎える。
「ユスラはいないんだな」
「梅桃ちゃんに用事?」
「いや、一人だけいないから気になっただけだ」
 楸に答えて、改めて本来の問いをかける。
「私の赤い勾玉がなくなったんだが、どこかで見ていないか?」
「勾玉?」
 問われてシオンは楸とカクタスを見るが、ふたりともそろって首を振った。
「なくなっちゃったの?」
「ここで落としたのか?」
「いや。なくしたのは確かだが、どこでかは分からない」
 素直に告げると、早速カクタスは部屋を探し始める。
「じゃあオレとりあえずここ探してみる」
「いつ落としたかとか分からないか?」
 シオンの問いかけに、しばし沈黙し思い返してみる。
「昨日の朝は持っていたな」
「そっか。じゃあアポロニウスは昨日通ったとこ探したらどうだ?
 あと瑠璃、落し物箱見て来い」
「了解っすー」
 主の命令に、素直に窓から瑠璃が飛び出していく。
 その姿をなんとなく見守っていると、つんつんと足をつつかれた。
 視線を下げると、ニヤニヤと品のよろしくない笑みを浮かべる楸の姿。
「なんだ?」
「もうっ! アポロニウス君たら知らん顔しちゃってー。
 探し物といえばふさわしい人がいるでしょー?」
「ああそういえば」
 そうだ。千里眼を持つコスモスなら簡単に見つけられるだろう。
 礼を言ってアポロニウスは部屋を辞し、再び廊下に戻る。
 さて。