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「呼んでも無駄さ」

「公女ー、反省してますから、出していただけませんでしょうか?」
 世にも珍しい薄の懇願の声。
「シーオーンーッ お師匠さまああああッ 出してくれよーっ」
 こちらはカクタスの聞きなれた涙声。
 一緒にいる身としては同じことを叫ぶのがお約束なのだろうが、生憎無駄なことはしない主義だ。故に沈黙を守る。
「何でオレがこんなとこに閉じ込められなきゃならないんだよーッ」
 恥も外聞もなく泣き出してるカクタス。
 ここまでプライドを棄てられるのは、ある意味うらやましいかもしれない。
 だが思い直した。
 自分も初めてここに『落とされた』時には、最後は泣いて助けを求めた気がする。
 ……一応、今のカクタスより歳は下だったが。
 確かにそれなりに怖いところではある。
 見た感じは鍾乳洞に似ているから、時折しずくのたれる音が響くし、薄暗い。
 だというのに、地から天から生えた円錐が、時に緑に時に青く、不気味に光を生み出す。
 その上、どこからともなくすすり泣くような声――もとい、入り込んでくる風が、人の声に似た音を奏でる。
 あー、夢に出そうだ。
「アポロニウスーッ なんとかしてくれよおおおっ」
「なんともならない」
 すっぱりと言い切ったにも拘らず、カクタスは諦め悪く叫んでる。
 心の読める薄は流石にそんなことはしないが。
 名前を呼んで懇願しても無駄なのだ。本気で心から反省しないと。
 まだ甘さが残るコスモスやシオンと違って、師匠は厳しいんだから。

怒りが解けるまでおとなしく待つしかないんだって。(07.08.15up)

「誰だってそうなんだよ」

 ゆれる風鈴、氷が落ちる澄んだ音。
 暑い夏に、こうした音で涼しさを演出するとは心憎い。
 茶器に満ちるのは見慣れた紅ではなく淡いグリーン。
 木製のソーサーの上には取っ手のないガラスの器。
 手にとって一口含めば緑の良い香りと味が広がる。
 満足そうに漏れる吐息。いかにも優雅なティータイム。
「これで反省すればいいのですけれど」
「まったくです」
 しかし交わされる言葉は少々過激。
「ですが姉上、良かったのですか?
 賢者様に伺いを立てず使ってしまいましたが」
「ええ。目に余るようならいつでも使って良いとおっしゃっていましたもの」
 シオンの疑問に、にこやかなコスモスの言葉が返る。
 姉弟の会話に混ざるものはない。
 触らぬ神に何とやら。下手に混ざればとばっちりを食らう。
 その辺、何度も体感済みの使い魔は、いつも良く回る口を閉ざしている。
「最近は目に余りましたね」
「ええ。本当に」
「……楸には逃げられましたけれど」
「それは椿に任せましょう」
 言って、コスモスはまたお茶を飲む。
「『あそこ』ならば、今回ばかりは反省するでしょう?」
「そう願いたいものですけど……というか、あそこで反省しなかったらどうすれば良いかわからないのですけど?」
「それもそうですわね」
 大きくなった今ならまだ耐えられるかもしれない。
 あの天然お化け屋敷は怖かった。すごく。
 血族ならば誰でも一度は放り込まれた『お仕置き部屋』。
 あの三人に、変なトラウマつかなきゃ良いんすけどね。
 使い魔はそれだけを思って沈黙を守った。

しっかり反省して来い。「そこ」の怖さは知ってるから。(07.08.15up)

「ふらっといなくなっちゃうんだから」

「あれ……いない」
 開けた扉の向こうには、きっちりと整頓された書類の山。
 しかし、それを片付けるはずの人の姿はない。
 役員クラスの人間の予定や行き先くらい、普通は誰かが把握してそうなものだが、生憎と探し人には当てはまらない。
 まえもって分かってる出張以外にも、行った方が早いと分かるや否や、簡単に連絡だけいれて行ってしまうんだから……転移魔法も良し悪しだ。
 使い手が少ないからこそあまり問題にならず、使い手が少ないからこそ厄介さが説明しづらい。
 昔は簡単に見つけることが出来た……いや、そばにいてくれたんだとわかる。
 まあ、師匠の側に立ってみれば、預けられた子どもの面倒は見ないといけないと思っていたんだろうけれど。
「師匠を捕まえるのがこんなに難しいとは思わなかった」
 自分の口から漏れた言葉に苦笑する。
 見つけるのはたやすかったけれど、捕まえることは一度も出来てないじゃないか。
 魔術にしろ、体術にしろ、一度でも近づけたと思えたことはない。
 だから、せめて。
「探しに行こうかな」
 近くにいるといいけど。
 そう呟いて、彼は部屋を後にした。

いつか越えるために近くに居て欲しいのに。(07.10.24up)

「恐い恐い」

「あれ?」
 見慣れた赤毛の姿に、説教されていた楸が声を出す。
「アポロニウス君だ。賢者様いなかったのかな?」
「そういや、書類出しにいくとか言ってたな。
 まあ、アポロニウスはいいとして。
 お前いい加減にしろよ楸。今月だけで何件苦情が来たと思ってる?」
「しーちゃんってばこわーい。ちょっとしたお茶目じゃないー」
 ごまかしきれず、再び説教モードに戻ったシオンに対し、楸は笑ってごまかそうとするが。
「お茶目で突風巻き起こすのか。季節外れの雪崩起こすのか。
 対応が難しいほど雑草を繁茂させるのか」
 伊達に付き合いが短くない。シオン相手にその手は通じなかった。
「最近さー。賢者様ってば忙しそうだよねぇ。
 元気出してもらおうかなぁ」
「余計なことはせんでいい。まず迷惑かけた各所にお詫びに行け」
 ごまかそうとする楸に対し、シオンは容赦ない。
 少しでも甘やかそうものなら、図に乗ることを知っているから尚更だ。
「しーちゃんってばホント怖い」
「俺はお前がしでかすことの方が怖いよ」

互いに互いが怖い怖い。(07.10.24up)

「賄賂のつもり?」

 差し出されたのは大きめの箱。
 白地に淡いグリーンのストライプとロゴ。
 ここ最近お気に入りのルイージデザートのお菓子。
 それはわかるけれど、それを差し出されている状況がわからない。
 だから、素直に聞いてみた。
「どういうつもり?」
「何もいわずお納め下さい」
 ははーっと平伏して……例えて言うなら、お侍に直訴している村人みたいなカクタス。
 訳がわからない。一体どういうことだろう。
「どういうつもり?」
「こっちがいいたいことくらい分かってるだろう?!」
 再度の問いかけに、涙目で返す彼。
 ……どうやらアレを見られてしまったらしい。
 さすがに舌打はしないけれど、これで警戒されるから、盛るのは難しくなったわね。
「頼むよ山吹! これで見逃してくれっ」
 もうすぐテストだろ、そんなときに倒れたらオレ留年するだろうってカクタスは言ってるけど。
「どうしようかなー?」
「……橘に似てきた……山吹まで橘化してきた」
 ほろほろ泣き崩れるカクタスの発言は流石に許容範囲外。
 もらうものだけもらって、役にも立ってもらおうと決意した。

行動を起こすことが引き金にもなる。(07.08.08up)

お題提供元:[台詞でいろは] http://members.jcom.home.ne.jp/dustbox-t/iroha.html