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しあわせ?な日

 寒いなと外を見やれば、ちらちらと白いものが空から降っていた。
「雪か」
 道理で寒いと思った。
 首元が寒いので、作業の邪魔になるからとくくっていた髪を解く。
 やっぱり髪があるとないとじゃ違うんだな。
 鏡を覗いて、この季節には似合わない鮮やかな赤いそれを手櫛で整えて、休憩室へと向かう。
 こんな寒い日はやっぱり温かいものがほしいから。

その1・バレンタインというものは

「おっ先~」
 休憩室には先客が居た。
 年は十六。栗色の髪をポニーテールにした、やたら明るい少女。
 紙コップを手に彼を確認してにっこりと微笑む。
「今日も寒いね~」
「そのわりには元気そうだな、ヒサギ」
 苦笑して言えば、楸の隣に座った黒髪の少女が断言する。
「楸はコドモだから、雪を見るとはしゃぐのよ」
「え~? だって雪ってわくわくするじゃないっ 思わず外に駆け出したくなるくらいっ
 梅桃ちゃんは違うの?」
「前言撤回。犬ね」
 言い切って、梅桃は再びココアをふぅふぅと冷ますことに熱中する。
 纏うローブのデザインは三人ともに同じだが、実働部隊である彼女らと事務員である彼とはその色が違う。
 うまくできているものだなと思って自販機で飲み物を購入して彼女らと同じ席につく。
「そういえば聞きたいことがあるんだが」
「なあに?」
「今日妙に周りが殺気立っている気がするんだが」
 何か重大な事件でもあるんだろうか?
 いっくらのんきそうに見えたって、もともとここは犯罪者の取締りをするところ。
 ここにきて日の浅い自分にはよくわからないことも多いし。
 何か問題でもあったのかと聞いてみれば。
「殺気立ってるって……どんな風に?」
「特に……女性の視線が獲物を狩る肉食獣のそれのような」
「うわなんとなく的確な表現だし」
 会話をしている間にも鋭い視線がきて、振り向けば視線をそらす。
 そんなことが続いている。
「あのね……」
 ため息つきつつ楸が彼の目の前で指を立てる。
「今日はバレンタイン・ディだから」
「ばれんたいん?」
「なかったの?」
 聞き返せば、不思議そうに問い返されておとなしく頷く。
 すると少女らは顔を見合わせて、めちゃくちゃ楽しそうに説明を始めてくれた。
「つまりね。女の子が男の子にチョコ持って告白する日~」
「でも本命のほかに義理チョコもあるから要注意。見れば大体判断つくけど」
「一ヵ月後にはお返ししなきゃいけないんだよ~」
「そうなのか?」
 知らなかった。そんな風習があるんだ、と感心していると。後ろから声が飛んだ
「お前ら何吹き込んでるんだ?」
「あ、しーちゃんっ。雪だよ雪だよっ積もるかな?」
「天気予報じゃ降るだけって言ってたけどな」
 楸に言葉を返しつつ、シオンは彼の隣に席を取る。
「え~。雪合戦したいのに~。しーちゃん雪つくって」
「ンなことに魔法使えるか」
 うろんげに従姉を見て、その視線を彼へとよこす。
 同じ収穫時の麦穂の鈍い金の髪。そしてその瞳。すべてが『彼女』を連想させる。
「で、アポロニウス。何言われたんだ?
 こいつらのいうことは話半分に聞いておいたほうが良いぞ」
 恩人の弟の言葉にアポロニウスは苦笑する。
「バレンタインの事を教えてもらっていただけだ」
 ふぅんと呟くシオンに、期待に満ちた表情で楸が尋ねる。
「しーちゃんチョコほしい?」
「既製品ならな」
「え~。手作りであげるよ?」
「アスターにやれ」
「酷いっ あーちゃんを食中毒で倒れさせる気っ?!」
「自覚あるなら料理しよう思うなっ!!」
 ぽんぽんと飛び交う言葉に、口をはさむ余地もない。
 アポロニウスは黙って紙コップを傾ける。
 見事に撃退された楸に代わり、今度は梅桃が口を開く。
「ほしいならあげるけど?」
「梅桃はなにか仕込んでるだろうがっ」
 とことん料理に関しては信用のない二人組みではある。
「それにお返しが面倒だからいい。なんなんだよ三倍返しって」
「去年大変そうだったもんね~」
 ぶすっとしたシオンにしみじみ同意する楸。
 そもそもこの日にチョコレートを送るというのはこの国独特の風習であり、外国人であるシオンたちにはなじみのないもの。
 それは去年の話。たまたま。本当にたまたま入団検査やらをしに来た日がちょうどこのバレンタイン・ディで、それを知らなかったシオンたちは一月後に本当に困ることになったのだから。
「今年は日曜でよかったさ。ここに閉じこもってれば多少ましだし」
 それでも義理チョコはいくつかあるだろう。ここに勤めている女性だっているのだし。
 それは別に『普段お世話になってます』ってことで気にすることはないけど、まったく知らない相手からって言うのが一番困る。
 ホワイトデーが近づくごとに訴えてくる視線も困るし。
「送られてきたらどうするの?」
「受け取れませんってカードつけて送り返す」
「あ、そ」
 一瞬そこまでするかとも思ったが口に出さないでおいた。
 シオンの立場が微妙なのは梅桃も良く知っていたから。

その2・アルブムの場合

 適当に会話を楽しんで、温かな飲み物のおかげで多少体も温もったので、全員そろって仕事復帰。
 いつもの溜まり場、シオンの部屋へと向かう。
 PAの団員は基本的に寮生活。4LDKの一部屋に一チームが放り込まれることが多い。
 ちなみにアポロニウスは入団の経緯が関係して、現在はシオンたちアルブムの面々と同室である。
 いつものように郵便物を確認しようとしたところ。
 どさどさどさっ
 そんな音すら立てて廊下に散らばるのは多数の箱。
 大きいものから小さいものまでさまざま、きれいにラッピングされている。
「うわーすごーい。こんなのマンガでしか見たことないよ~」
「こうやって送られるものなのか?」
「『いつも頑張ってるシオン君へ。メイベルより』
 こっちは『アポロニウスさんへ。リラより』だって」
 挟まれてるカードを手に取り梅桃が報告する。ざっと見てやはりというかなんというか……カクタスの名が書かれているものは少ない。
「というかどうして入ってるんだっ? どうやって入れたんだ?!
 ここの防御大丈夫なのか?!」
 シオンが騒ぐのも無理はない。
 ここは一般人立ち入り禁止のPA敷地内。
 『メイベル』は確か高校のクラスメートのはず。
 受付の人が受け取って各人の部屋に届けていると気づきそうなものだけど。
 それは心にとどめたまま、めったに見せない笑顔で梅桃はこうのたまった。
「お返し、頑張ってね」
「……思いっきり人事だなっ」

その3・アポロニウスの場合

 机の上に置かれたチョコの山を見てアポロニウスはため息つく。
 ためしに同僚のものを分けてもらって食べてみたが、冗談じゃなく甘かった。
「拷問か?」
 思わず口から出る怨嗟。
 しかもこれは一人で食べなければならないという。
 甘いものが嫌いなアポロニウスにとっては確かに拷問だろう。
 ……コレはシオンを見習って送り返すほうがいいかもしれない。
 気持ちを変えてカードに目を通す。
「これ……あなた……渡す……渡せか?」
 むぅっと眉をしかめてみても、変わらない。
 やっぱりもっと勉強するしかなさそうだ。必死に勉強したから話すことには不自由しなくはなったが、読み書きとなるとやはりまだ及第点には届かない。
「どうしたものかな」
「うわーすごい量ねぇ」
 突然あがった声に思わずイスから落ちかける。
「こっ コスモスっ?!」
「失礼ね。人を幽霊みたいに」
 機嫌を損ねたように仁王立ちしているのは、先月以来に逢う恩人。
 金の髪は束ねられて、紫の瞳が射抜くようにアポロニウスをにらんでいる。
 とりあえずイスを勧めてから改めて問い掛ける。
「どうしてここへ?」
「レポートの提出に本部に行く羽目になったのよ。提出だけならどこにしても変わらないだろうに、何でわざわざ外国まで行かなきゃなんないのよねぇ?
 ってわけで、ついでにおとーとに会いに来たの」
「あ……そうか」
 自分に会いに来たわけではないんだ。
「で? 勤務はうまくいってる? 言葉覚えた?」
 そんなことを思った自分をちょっと意外に思いながら――そしてそれが彼女に知られないようにと願いながら――も頷く。
「多少は」
 それはよかったとにこやかに微笑むコスモス。そこへノックの音がして扉が開く。
「アポロニウスくーんっ 一昨日の報告書って……」
 言葉の途中で詰まった楸にコスモスはぴっと片手を挙げて挨拶する。
「ひーちゃん久しぶりっ♪」
「こーちゃん♪ 久しぶりっ どうしたの?」
 駆け寄る楸をひらりとかわしてコスモスは憮然と告げる。
「レポートの提出帰り」
「……そーなんだ? しーちゃんに会ってく?」
「そりゃもちろん。と」
 何かを思い出したのか、手にした大き目の旅行かばんをごそごそあさり。
「はいこれ」
 取り出したのはやさしい緑色の包装紙の箱。それをアポロニウスの手に置く。
「この国じゃバレンタイン・ディってチョコレート送るんでしょ?
 縁起物だからあげとくわね」
「あ……りがとう」
「どういたしまして」
 ぎこちなく礼を言うアポロニウスにコスモスはにっこりと微笑む。
「と、あんまり長居も出来ないのよね。ひーちゃん、シオンどこ?」
「団長に呼び出されてたよ」
「なるほどありがと。じゃ、またね」
 言うだけいって去っていくコスモス。
 彼女を見送ったまま動かないアポロニウスに楸が言う。
「良かったね」
「え?」
 まるで楸がいることに今気づいたかのような反応に苦笑しつつ、心の底からの笑顔で言う。
「こーちゃんからチョコもらえて」
「いや……まあ」
 他のはともかく、これだけは絶対に一人で食べようと誓うアポロニウス。
「ま、本命とはかぎらないけど」
 止めを刺すのは忘れない楸だった。

その4・シオンの場合

「あーあ」
 ため息をつきつつシオンは寮へと帰る道を行く。
 また今日も怒られた。いったいいつになったら怒られない日がくるんだろう?
 ……一体いつまで記録更新を続けるんだろうか?
 定位置の肩にとまった瑠璃がしみじみという。
「マスター。だめっすよ、前向きにいきなきゃあ」
「ならそーゆー暗い声で言うな」
 いまいましそうに呟くシオンに、背後から忍び寄る白い手。
 そして彼女は獲物(シオン)にそぅっと近寄って、射程内に入った瞬間に一気に抱きすくめる。
「ぐえっ」
「シーオーンっ」
 そっくりの金髪をなびかせて、弟の首っ玉にかじりついたままコスモスは話す。
 一方シオンはといえば束縛から抜け出そうと必死にもがいている。
「あははははっまだまだちっちゃいわね~♪
 いーかげんおねーちゃんの身長抜いてもいいんじゃないの?」
「~っ!!」
 ますますばたばたと暴れるシオン。
 六つも年が離れているだけあって、コスモスにとってシオンはいつまでたっても小さい子供のまま。
 しかし、シオンは一向におとなしくなる様子はない。
「姉弟なんだからそんなに嫌がることないじゃない?」
「首! 首絞まってるっすコスモスさんっ」
「あ」
 使い魔の悲鳴に腕を放せば、愛しいはずの弟は本気で呼吸確保に努めている。
「いきなり何すんだよっ 人を殺す気かっ?!」
「不可抗力ふかこーりょく」
 反省のない様子にため息ついて、胡乱げに姉を見上げて嫌そうに言う。
「んでねーちゃん何の用だよ?」
「ん? 本部にレポート提出して、暇だから一応」
「一応なんかで一般人立ち入り禁止になってるよーなとこに来るな」
 シオンのもっともな反論をまったく無視してコスモスは荷物をあさる。
「まあまあ。これあげるから機嫌直しなさいな」
 言って箱をシオンに押し付ける。
「なに?」
「チョコに決まってるでしょ?」
 ちゃんとこの国の風習確かめてきたんだと胸はって言うコスモスに、シオンは姉と手の上のチョコと旅行かばんとを見比べて問い掛ける。
 普段この姉はここまで荷物を持って旅行することはない。
 多分このかばんの中身はそのほとんどがお土産品と見ていいだろう。ということは?
「チョコいくつ買ったんだ?」
「さあ?」
「さあ? さあってなんだよっ こんだけ買ったらかなりしただろ?」
「こんなんで散財でもしないとストレス解消できないわよっ」
 きっぱりと言い切ってコスモスはかばんの中をシオンに見せる。
 そこには数々の箱箱箱。
「かわいくておいしそーなのたくさんあったから見るだけでも楽しかったけど、やっぱり食べてみたかったし。ただやっぱり多すぎたからおすそ分け」
 取り替えたいなら好きなのどーぞとまで言ってくる。
「おすそわけ、ねぇ」
 呟いてふと思う。
 これらは包装紙から判断するに、みんなそこそこ値段の張るようなものだ。
 この姉のこと、義理や本命だのといった物があるなんてことは知らないだろう。
「ねーちゃん」
「うん?」
「ちなみに誰にあげた?」
「え? えーと」
 相手によってはまずい。そりゃーもうまずい。
「大叔父さんにレンテンローズ支部長でしょ。あとここの団長さんに、アポロニウス。今のところそのくらいかな」
 その言葉に思わず安堵の息をつく。
 ならいいか。アポロニウスに関しては……誤解があるかもしれないけど。それはまあ姉が悪いってことで。
「まああんまり説教する気はないけど……自分の行動に責任持てよ?」
 弟の急な言葉に当然のごとくコスモスは眉をしかめる。
「何よそれ」
「そのまんまだよ」
 つっけんどんに言うシオンにコスモスはほほを膨らませる。
「可愛くないわねえ。あ、瑠璃君チョコ食べる?」
「だからそれをやめろっての」
 憮然としたシオンの突っ込みは、聞き入れられることはなかったという。

 おしまい

PAながらメインはナビガトリア主役組、とゆーお話です。ま、主役同士が姉弟ですし。
ここら辺りからアポロニウスがメンバー入り。それに伴い彼女やその部下も出てくるように。