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白い日のお返し【前編】

 それは珍しくもこれといった仕事がなく、急だけど休みでいいよと槐さんに言われた日。
 シオンはかねてからの懸案事項であった部屋の……もとい、本の整理を始めることにした。レポートやら調べ物やらで引っ張り出したままの本を納めるのは結構大変なので、手伝い役にアポロニウスをリーダー命令で召喚したが、これはかなり正解だった。
 楸は掃除に向かないし、梅桃を自室に招くと何を仕掛けられるか分からない。
 カクタスでもいいのだが、あいつはさっさと昇級させるべくジニアおじさんに預けた。
 こういうときには率先して手伝おうとする瑠璃も、本を傷めるのが嫌なので暇を出し、あらかた収め終えたところでふと思い出す。
 もうすぐ、あの嫌な日が来るんじゃなかったか、と。
「そういえばさ、アポロニウスはもう決めたか?」
 唐突なその言葉に、問われたアポロニウスは首を傾げる。
「何の話だ?」
「何って……もうすぐ一ヶ月経つだろ?」
 不思議そうに問い返すシオンを倣ってカレンダーを見れば、たしかにもう三月に入って最初の週は終わっている。
 しかし、いつから一ヶ月が経つというのだろう?
 まったく理解していないアポロニウスに気づいたのか、シオンがカリカリと頭をかきつつ、言い含めるように噛み砕いて説明を始めた。
「約一ヶ月前のバレンタイン・ディにさ、アポロニウスはねーちゃんからチョコもらったんだよな?」
「あ、ああ。貰ったな」
 こくこくと頷く彼に対して、シオンもこっくりと頷きながら言葉を続ける。
「バレンタイン・ディの一ヵ月後……つまりもうすぐやってくる三月の十四日はホワイトデーといってだな、バレンタイン・ディにチョコレートなどをもらった男性が、そのお返しとしてプレゼントを女性へ贈る日なんだ」
「……貰ったからにはお返しを、というのは分からないでもないが、何で一ヵ月後なんだ?」
「そういうものらしい」
 俺が知るか、故郷の風習じゃないんだと付け加えてため息の後にシオンは再度問う。
「で、どうするんだ?」
「シオンはどうするんだ?」
 確か彼もたくさんのチョコを貰っていたはずだと思い出し問い返せば、きょとりとした顔で首をかしげた。
「ほとんど受け取れないって返品したけど」
「ああそうだったな、そう言ってたな」
 彼はこんなところに所属しているが……いや、魔法協会創設者の直系子孫だからいてもおかしくないが……公爵家の長男、跡継ぎである。
 たまに来る姉にくっついてくるニュース狙いの記者達に話題を提供する気は毛頭ないのだろう。
「ねーちゃんや事務の人には菓子返すつもりだけどな。
 クッキーが好き嫌い少なそうだから無難かな」
「そ、そうか」
 義理で貰ったものには菓子と脳内にインプットしておいて、ではコスモスに何を返そうかと考える。
「まあ、何を買うかはアポロニウスの自由だけどさ」
 完全に面白がっている口調のシオンを睨むと、彼は苦笑してぴっと人差し指を立てた。
「とりあえず、参考意見を聞くなら楸と梅桃は止めとけ。
 あいつらは絶対に面白がるから」
「良く分かった」
 ありがたい忠告に神妙に頷く。
「それから……掌で転がされるような気がするから、薄もお勧めしない」
「ああ、それも納得する」
 忠告ありがとうと答えつつアポロニウスは悩む。
 ホワイトデーまで残り僅か。