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  4. 「比べ物にならないね」・「やっと来た」・「疲れたぁ。もーダメ」・「ねぇ、何してんの?」
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「比べ物にならないね」

「いや。もう、な。本当にな」
 ぽつりぽつりと言葉をこぼすのはカクタス。
「厳しいと思うんだ、シオンはッ」
 テーブルに少し強めに……でも決して壊れることがないようにコップをぶつけて、そのまま上体を伏せる彼。
「オレさ。魔法を本格的に勉強し始めて、まだ二、三年なんだよ。
 だって言うのに、これ詰め込みすぎだよなっ そう思うよなッ」
 叫びつつ傍らに山と詰まれたプリントをぺしぺし叩く。
 正直、そんなことしてたら今にも雪崩れてきそうなんだが。
「いいじゃないか。熱心な師匠で」
「熱心すぎるのも困るんだよッ」
 愚痴るカクタスに、変わらぬ笑みのまま言うアポロニウス。
「いいじゃないか。座学だけで」
「……体動かせる方がいいときもあるぞ」
 アポロニウスが彼のお師匠様に投げ飛ばされている姿を見ることが多いため、控えめながらに反論するカクタス。
「小さいときの失敗を知られているわけでもなし」
「そりゃ……中学からの友達だし」
「あらゆる分野で負けてるわけでもなし」
「……アポロニウスだって、身長は勝ってるだろ」
 まずいと思ったときには遅すぎた。
 愚痴を聞いてもらうはずだったカクタスは、結局、倍以上の愚痴を聞くことになる。

同僚で友達だけど師弟。上司で育ての親で師匠。どちらが不幸?(07.10.10up)

「やっと来た」

 ずかずかと遠くから足音が聞こえた気がした。
 コップを手にしたまま、未だにアポロニウスはぶつぶつ言っている。
 もしかして、酔ってるんだろうか?
 というよりも、これで酔っていないというのもいやな話だけど。
「こらーッ 一体いつまで遊んでんだッ」
 愚痴の対象・だけど今この瞬間は間違いなく救世主。
「しーおーんーッ」
 諸手を上げて迎えるカクタスに、シオンの足が止まって数歩下がる。
「遅い、遅いぞッ でも来てくれてありがとう!
 だから助けて……」
 自分の方が待っていたはずで、どうしても来ないから仕方なく迎えに来たはずだよなと思うシオン。
 彼が感じているように、シオンに非はない。
 ふうとため息一つついて、そのまま部屋を出て行った。
「ちょっ 待てよシオンッ
 たすけてよおおおおおっ」
「……知るか」
 結局、本当の意味でカクタスに助けが来るのは……まだまだ先のこと。

弟子は師匠のために。君子危うきに近寄らず。(07.10.10up)

「疲れたぁ。もーダメ」

 ばったりと机に伏せたあたしに対し、彼らが取ったりアクションは無し。
「ちょっと、何とか言ったらどうなの?」
 顔を動かして恨みがましく見上げるあたしに、満面の笑みで答えたのは、いわずと知れた自称忠実な部下。
「なんとか」
「お約束な事言わなくていい」
「がんばるって言ったの、ねーちゃんだろ? ほら、テキストまだ後五ページあるよ」
「……容赦ないわね、シオンは」
 くそうと思いつつ、テキストを開く。
 シオンは今回代理教師役。
 姉弟って権限を駆使して教えてもらっている。
 何を勉強してるかって言うと、魔法検定。周りからはうるさく言われてたし、持ってたほうがいいかなと軽い気持ちでいたのだけれど。
 難しいっての。
 だけど、受けるといった以上、おばあちゃんが怖いから、まじめに勉強しないわけにはいかないし。
 ぶーたれつつも、結局諦めてあたしは勉強に戻る。

 次に根を上げたのは、一分と経たぬ頃だった。

面倒くさいと駄々こねる姉と見張り係の弟。(07.09.05up)

「ねぇ、何してんの?」

 ねーちゃんの疑問に、アポロニウスは訳が分からないといった表情を浮かべる。
 すっかりやる気をなくしたねーちゃんに、とりあえず休憩してもらおうってことで、お茶にでもしようとしたんだけど。
「何といわれても」
「見たまんまの茶坊主じゃないんですか? 公女」
「茶坊主言うな」
 本人は否定してるけど、ポットを持ち上げてティーカップに注ぐ姿は板についてる。
 茶坊主で無けりゃあ執事かな?
「なんでアポロニウスがそんなお茶なんて淹れてるのよ?」
「いらなかったか?」
「飲むけど!
 そうじゃなくってあんたも受けるんでしょ! 試験!!」
 言われてようやく納得したように頷くアポロニウス。
「ああ、受けるように言われていたな」
 あまりにもあっさりした答えに、怒りは薄れたんだろう。
 軽く息をついて、ねーちゃんはカップを手にする。
「じゃあ何でそんなにのんびりしてるわけ?」
「いや、のんびりしてるわけじゃないと思うよ?」
 俺も紅茶をいただきつつ、一応弁護する。
 あ、今日はアッサムか。
「どういうことよシオン」
「アポロニウスには専用の……
 っていうより、直々のお師匠様がみっちりしごいてくれてるし」
「師匠?」
 ねーちゃんは一瞬だけ空を見て、すぐに気づいたらしい。
 さっきとは違って優しそうな……同情交じりの眼差しを彼に向ける。
「頑張ってるのね……」
「……しみじみ言うな、頼むから」
 無理難題は言いつけないけど、見た目と違ってかなり厳しい師匠を持つ弟子は、投げやりな様子でそう応えた。

息抜きでもやってなきゃ精神的にもたない。(07.09.05up)

お題提供元:[台詞でいろは] http://members.jcom.home.ne.jp/dustbox-t/iroha.html