ここが正念場
そんなに変なことを言っただろうか?
こちらを見るコスモスは呆然とした様子で、いつものような軽口も返ってこない。
内心首をかしげつつ、それでもアポロニウスは返事を待つ。
ぽかんとした様子の彼女は相変わらずで、もしや聞いていなかったのだろうかと不安になるが。
「誕生日にプレゼントを贈るのは、そんなにおかしいことか?」
おもわず問いかければ、ぱちぱちと瞬きを繰り返して彼女は緩く首を振る。
「いいえ。おかしいことではありません」
その口ぶりから動転している様子が伺えるが、逆に聞きたい。
なぜ、そこまで驚くのかと。
「誕生日を知っていたとは思わなくて……」
困ったように言う様子には嘘は見られない。
が、こちらとしては彼女の関係者全員から話を振られていたのだから、何とも返しようがない。
贈ったのは花とちょっとした装飾品の形をした護符。
何かと厄介ごとに巻き込まれやすい――どちらかというと、進んで巻き込まれに行く彼女には最適だと思うのだが。
……それとも、こんなものを受け取るわけにはいかないということだろうか?
アポロニウスの『常識』では、女性にアクセサリーを送ることは夫婦や恋人間ならいいとされていた。恋人でもない相手にアクセサリーを送ることは失礼にあたるのだ、と。
アクセサリーといっても実際は護符だし、誕生日のことを教えてきた連中はしきりにそういった装飾品を送れと口をそろえていたので、今の時代ではそこまで突飛なことではないはずなのだが。
四つ葉のクローバーを模したのペンダントにしか見えなくても、使われている石はガラスでも宝石でもなく魔封石。れっきとした護符である。
が、高価すぎるということもなく、ここまで困惑される理由が……
そこまで考えて、アポロニウスは気づく。
だからこそ、あえて困ったように言う。
「気に入らないのか?」
「いいえ」
「ならば何故? こちらは命を助けてもらった身だから、それなりの礼はしたい」
畳み掛けるように言えば、観念したようにコスモスも告げる。
「どうして、緑の石ですの?」
「風は攻防共に使い勝手がいいからな。それにコスモスの属性だろう?」
何を当たり前のことをといった様子で返して、さらにアポロニウスは続ける。
「モチーフは何にしようか迷ったが、それは幸運のシンボルなんだろう?」
「……手作りでしたのね」
呆れたような物言いに、今度は本当に首をかしげるアポロニウス。
護符なんて買ったら値が張る上に、所詮は汎用品の域を出ないじゃないか。
個人個人にあわせようと思うのなら、結局手作りが一番手間も金もかからないのに。
そういったことを訴えれば、彼女は深々とため息をついた。
「これもジェネレーションギャップというのかしら?」
呆れか嫌味か。
けれど、彼女はようやく護符を手に取る。
見よう見まねでやった包装は、透明な袋にリボンをかけただけの簡易なもの。
白い指がリボンをほどいて、慣れた手つきでペンダントを付ける。
緑の石が彼女の首元を飾った。
「どうでしょう?」
「チェーンはもう少し長い方がよかったか?」
「いいえ、大丈夫です」
彼の答えに彼女は笑う。いつもの彼女らしくない淑女の笑みで。
だからこそ怖い。どこまで気づかれているのか。はたまた気づいていないのか。
――どちらでもやりようはあるけれど。
そう胸の内で呟き、彼は笑う。
「うん……やっぱりコスモスには緑の石が似合うな」
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
そ知らぬふりで一手一手。すこしずつ詰めていく。