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「無理言わないで」

「約束守ってもらうからなッ」
 嬉々として部屋に飛び込んできたのは、かーくん。
 急にそんなこと言われても、何か約束してたっけ?
「あー。そういや、してたなぁ」
 しみじみというのはしーちゃん。
「何の約束してたの?」
「ん? 試験に一発合格したら」
「女の子紹介してくれるんだよなッ」
 こぶしを握り締めて言うかーくん。
 つくづく、男ってヤツは……
「単純ね」
「てゆか、しーちゃん女の子の知り合いあんまりいないんじゃないの?」
「何ッ ひでーぞシオン! 騙したのかッ」
「……俺の場合、俺は知らなくても向こうが知ってるからな」
 嬉しそうじゃないどころか、どこか遠い目で言うしーちゃん。
 まーね、しーちゃんに群がる女の子って、財産目当てとか多すぎるよね。
「だからまあ、次にパーティに招待されたらおとなしく行く」
 うわー、暗いよ。暗いよしーちゃん。
「あ、じゃあその時に連れてってくれるのか?!」
「そーゆーこと」
「やったーッ」
 不満顔が一転して、かーくんはまたはしゃぎ始める。
「やったーはいいけどカクタス。色々覚えてくれよ?」
「ほへ?」
「シオンが呼ばれるパーティが、私たちがするようなものとは違うって知ってるでしょ、カクタス?」
「え、あ、う?」
「エスコートの仕方とか、ダンスは必須だよねぇ」
 正直、あたしもそんなとこ行ったことないけどね。
 興味がないといえばウソになるけど。
「そんなの覚えられるかよーっ」
「馬鹿だなカクタス。
 PAはこういったマナー方面も勉強しなきゃいけないんだぞ」
「「うそーッ」」
 今度は声がそろった。あたしだって、そんなこと知らない。
「瑠璃、ねーちゃん呼んできてくれ」
「はいっすー。ダンスできる格好でって言えばいいんすね」
「ちょっとまったーっ
 しーちゃん、あたしたちもッ?!」
「お前らもPAだろうが。逃げるな梅桃」
 にっこりと笑うしーちゃんは、迫力満点の『貴族モード』で。
 このあと、あたしたちは思いっきりしごかれることになった。

餌に釣られた人と、別の餌で二重の罠を張ってた人。(07.09.19up)

「冷静になりなって」

 血の気が引く。
 そんな表現は聞いたことあるけれど、実際に起きるもんだと何度身に染みたことだろう。

 窓から入るまぶしい光。シルエットとなって向かい合う二人。
 というよりも、椅子に座った女性と、立ったまま見下ろす男性。
 男性の手が伸びる。女性の頬に添えるように。
 いつもならデバガメを決め込むところだけれど今回はちょっとまずい気がする。
 壁に引っ付いたままに楸は少々考え込む。
 男性の方は見覚えが無かったけれど、女性の方は見覚えがある……というより、彼女に会いにここに来たのだ。知らない方がおかしい。
 ちろりと扉のプレートを見る。
 『館長室』。
 PA内でこのプレートがあるのはただ一室。女性はここの館長さんだ。
「これは出直してきた方が良いかなぁ?
 ね、しーちゃん」
 一緒に荷物……返却の本やら彼女宛に届いた手紙やらを持ってきたシオンは、彼にしては珍しく固まっている。
「しーちゃん?」
 怪訝に思った楸が目の前で手をひらひらしてみれば、そんなことされなくても分かってるとばかりに睨み返すシオン。
 しかし口から漏れるのは意味のない音だけ。
 もしかして、ショック受けてるんだろうか?
「しーちゃんって、もしかしなくっても賢者様が初恋だよね?」
「断定するならわざわざ疑問系とるな」
 少しふくれていう彼に、いたずら大好き従姉は笑う。
「んーん、べっつにぃ?」
「……とりあえず時間おくぞ」
 さっさと下に戻ろうとするシオンに苦笑しつつ、それでも楸は明るく言う。
「しーちゃん、階段そっちじゃないって逆だって」

ショックを受けたことがショックだったりする。(07.10.24up)

「泣き止まないんだけど」

 なんとなく、分かっていた。
 今朝、目が覚めた瞬間から妙に頭が重くて。
 つい最近『うたた寝』したくらいだから、弱ってるとは思っていたけれど。
 確認しなくても分かる。でも、それでも一応、手を当ててみる。
 案の定、頬どころか枕も涙でぬれていた。

「失礼します。師匠すこしお聞きした……って」
 返事を待たずに入ってきた弟子が、私の顔を見て絶句する。
「えーと」
 何か思い出すように頭に手をやって、声を絞り出すアポロニウスさん。
「また、ですか?」
「また、ですよ」
 返す私の声は、べつに掠れてもいない、いつもどおりのもの。
 違うといえば止まることなく流れ続ける涙だけ。
 それが異常なんだということは、とっくの昔に分かっているけれど。
「でもどうしてでしょうね。『かふんしょう』とかじゃあないんですよね?」
「ですよ。引きずられているだけですから」
 共鳴とか共振といったもに似ているのかもしれないというのは、姉の弁。
 どうも『わたしたち』は他人の感情に共鳴してしまうらしい。
 たとえで言えば、姿が見えなくも声が聞こえなくても、近くで人が泣いていると、その人の『悲しい』という感情が、自分の中に流れ込んでくる。
 正直、うっとうしくなるのも確か。
 ――また、誰かが……
 黙ってしまった私に、弟子はおずおずと口を開く。
「師匠、お願いですから」
「分かっています、出ませんから」
 騒ぎになることを恐れる弟子に、ほんの少しだけ苦笑した。
「私はここから送らせて頂きます」
「はい……」

時の流れが違うと思い知ってはいるのだけれど。(07.09.12up)

「来世で会おう」

 もしかしたらいつか、自分がこうやって送られることがあるかもしれない。
 記憶をたどりながら紡ぐ歌。それでもつっかえたりすることなく歌詞が出てくるのは、やはり馴染んだものだからだろう。
 父がああいう仕事をしていただけあって、この手のことは自然に覚えた。
 ――まさか、今頃になって使うことになろうとは思いもしなかったけれど。
 光を撒き散らす太陽の下、久々に纏った服。
 元々あったものを何とか着られるようにしたと言っていたけれど、これなら十分だ。
 いつもはなんだかんだで騒がしい本部も、このときばかりは静かになる。
 それこそ『沈黙の広場(このばしょ)』に相応しいように。
 無機質な鐘の音が遠く高く消えていく。
 捜査団(ここ)に入ったときに約束された場所。
 得ることなく出て行く者が多いことを、ただ願う。
 今はただ安らかに。
 夜に包まれてゆっくりと眠れ。
 ――再び朝日が昇るまで。

いつかもこうやって歌った、葬送の歌。(07.09.12up)

お題提供元:[台詞でいろは] http://members.jcom.home.ne.jp/dustbox-t/iroha.html