追いかけて
そもそもが、スタート地点からして違う。
彼は長い長い歴史を持つ家に生まれ、それこそ物心つく前から魔法に触れていた。
自分はというと、初めて意識をしたのが中学生のころ。その時点で十年近くの差はある。
ウサギとカメの童話よろしく、遅々とした歩みでもいつかは追いつき、追い越せるはず――そう思っていた。昔は。
思い返してみれば、なんて無謀だったのだろうと我が事ながら呆れてしまう。
魔力許容量は中の下、魔力の強さは下の上レベル。頭では分かっているつもりでいた。
でもPAに入団して、基礎訓練から始まり新米として実働部隊に所属すること約二年。それでもう分かってしまった。
自分に、実働部隊は向かない。
体力面では一番下、魔法の方は下から二番目。参謀ができるほど頭の回転は速くない。
それでどうしてPAに入ってしまったのだろう?
……入団時にそれを考えさせなかった勧誘者を褒めるべきかもしれないが。
そもそも、同じ土俵で戦おうとしたのが間違いなのだろう。
さらさらと動かし続けていたペンを置いて、書き上げたものを読み直す。
うん、たぶんこんな感じでいいだろう。ネットで調べた例文そのままだけど、形式が一応あってて意図がわかれば問題ない、と思う。
真白な封筒に大きく異動願いと書いて、先ほど書き上げた紙を収める。
実働部隊には確かに向かない。でも――退団する気はさらさらない。
びっくりするだろうか。案外納得されるかもしれない。
くすりと笑って桜桃は立ち上がる。
なにも同じ道を追いかけることはない。
私は、私のできることを、得意な方法でやればいい。
そうして――いつか追い抜いてやろう。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
梅桃の決意。
同じ場所にいなくったって張り合うことはできる。