ああ青春
PAに入団すると基本的に寮生活になる。
団員が国際色豊かなのと、なんだかんだで機密事項がたくさんあるが故だ。
外との連絡は、受付に設置されている電話か、もしくは手紙が多い。
携帯での通話やメールもできるが、どこまで記録がとられているか分からないという噂があるので、比較的アナログなものが好まれている。
そういうわけで、各チームは最低一日一回郵便物の受け取り確認をするように徹底されており、チーム内で担当を決めて受付に確認に行くことが多い。
アルブムの場合は学生が多い故に、午前中にアポロニウスが、午後は他がローテーションで担当になっている。
そして本日、荷物の多い当たり――はずれともいう――にあたってしまったのはカクタスだった。
「シオン宛が4通に、アポロニウスが2通か」
共有スペースのテーブルに、宛先に合わせて分けて置いておくというルールのため、とりあえず両手を動かして封書の順番を入れ替える。
「シオンのはいつも重要書類っぽいから持ちたくないんだよなー。アポロニウスは……DMか?」
人のものとは言いつつも、書類の宛名と差出人の確認はしなきゃいけない作業だ。
「で、山吹はなし。オレ宛もなし。橘が3通か」
楸に郵便物なんて珍しいと思って差出人を見てみれば、なんと外国の住所が書かれていた。
ひとつは明らかに仕事関係のもの。捜査団のエンブレムが透かしで入っている以上、公式書類だろう。もう一つはファンシーな封筒で、字も可愛らしいから友人からだろうか? そして残る一つ。シンプルな封筒に書かれた差出人の名前は男のもの。
親戚の場合、シオン宛にももう一通届いているか、彼との連名で届けられることが多いから、たぶん違うだろう。
なら中学時代の友人かというと、これも違う。
そうなら差出人の住所は桜月からのはずだ。
と、いうことは。
夕食後、女性陣がいなくなる時を見計らって、カクタスはそっとシオンに近寄った。
「シオン事件だ!」
「何がだ」
言葉の勢いはよく、しかしこっそりと言ってのけるカクタスに対し、シオンの声はそっけない。視線すら、まだ沸騰を始めてもいないやかんに注がれたままだ。
けれど、こんなことはしょっちゅうあるので気にせず続ける。
「橘宛の封筒、見たか?」
「アルテでの仕事の後日談とかだろ?」
「そこに、男からの封筒あっただろ?」
声を潜めて言うカクタスに、ようやっとシオンがこちらを向く。
どうやら聞く耳を持ってくれたらしい。
手ごたえを感じてカクタスが内心ガッツポーズを取った時。
「ああ、彼氏できたらしいな」
そんな、爆弾が落とされた。
「なんだってー?!」
「うるさいぞ」
ことことと小さく音を立て始めたやかんを見ながら、シオンはポットとカップを用意し、キッチンタイマーの設定を始める。
「前に単独任務あったろ? その時に付き合い始めたらしい」
「いいないいな羨ましいな!」
この忙しい毎日の中で、そんな出会いがあろうとは!
心の底からの叫びに、シオンは呆れた視線を返す。
「オレも彼女欲しい!
つかシオンは先越されて何も思わないのか?」
「え? このまましっかり騙して婿にしてしまえって感じだけど」
「……なあ、貴族ってみんなそうなの?」
「他は知らん」
茶器を温めた湯が捨てられ、紅茶がカップに注がれる。
「それはそうと、明後日の試験、大丈夫そうか?」
「今言うなよーっ!!」
容赦のない言葉に半泣きになって抗議する。
同僚は青春を満喫しているというのに。
「むなしい」
後々、カクタスはとっても波乱万丈な青春を過ごしたと回想することになるが、その原因は、このときの嘆きをどこかの暇な神様が聞いていたせいかもしれない。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
カクタスメインの話を描きたいなと思い始めて早数年。いまだ日の目を見ません。