1. ホーム
  2. 酔っているだけお話
  3. ナビガトリア
  4. 酔っているだけ
ナビガトリア

酔っているだけ

『師匠はどうして人といるんですか?』
『……なんですかいきなり』
 ぶしつけな問いに、師匠は困った顔で質問の真意を聞き返してきた。
『だって、師匠は凄く長生きなんでしょう?
 ぼくだってこんなに大きくなったんですもん』
『まあ、確かに大きくなるのは早いですよね』
 すぐに背を抜かれてしまうと苦笑して、師匠はまた洗濯を始める。
『師匠!』
 誤魔化されてなるものかと大声で呼ぶと、また困った顔で笑われた。
『どうしても理由がいるなら』
『なら?』
 そして師匠の答えは――

 何と聞いたのだろう?
 冷たい石に封じられて、時間の流れを否応無く変えられてから、長く時が流れすぎた。
 私を知る者は皆いなくなり、私が知る者も皆、いなくなっていく。
 人と石と。
 どちらが長く在り続けられるかなど分かりきっている。
 みんな先に老いていく。みんな先に死んでいく。みんな私を置いていく。
 師匠はずっとこんな思いをしていたんだ。
 別れは辛い、さみしい。
 どうやって越えていったのだろう?
 だが、一時絶望に打ちひしがれても、慣れとは怖いものだ。
 だんだんと『そういうもの』だと思えてくる。
 持ち主の代替わりはその生の終焉と同じこともままあった。
 主を看取り、次の持ち主の元へ。譲られ続けて私は生きる。
 誰がこの運命を課したというのだろう!

 譲られ続けて今の持ち主の元へたどり着き、会話が出来る事もあって色々言ったし言われた。だが、効いたのはあの言葉。

「罰ね。
 罪を犯したから罰を受ける……でも。
 罰を受けてるから大丈夫……そんなこと思ってない?
 それは本当に『償い』なの?」

 聞くものによっては憤慨するような内容だとは思う。
 それが私には特に効いた。
 自らの不幸に酔っていただけだと……そう、気づかされたのだから。

ナビガトリアでリクエストを頂きましたが、酒に酔うでも雰囲気に酔うでもなく、不幸に酔ってたアポロニウス。
ひねくれはしたものの壊れなかったあたり精神は強いですが、そんな彼でも最近の扱いにはこっそり涙する事も。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/