正直と嘘吐き
その言葉を聞いたのは、偶然だった。
「もう『クローゼ』に戻る事は出来ないんです」
そっと様子を伺えば、憂い顔の姫殿下と神妙そうなエステル君の姿。
むむむ……ここは明るく慰める方がいいのか?
一瞬だけ考えて、気づかれてないようだしこのまま通り過ぎてしまう事にする。
飛行船での旅は帝国では考えられないほど快適で。
特等席に陣取って、空からの景色を眺める。
あと、何回見れるだろうか?
猶予期間は後少し。だけど。
「今降りるのはもったいない」
かすかに空気を震わせる言葉。
怪盗紳士との決着もついていないし、ヨシュア君のこともある。
それに……彼女が何を決断するかも気になる。
彼女は精一杯悩んで、迷って。
流石はあの女王陛下の血筋と言うべきか。
女王国家だからという訳じゃないんだろうけど、この国の女性は強い。
エステル君やシェラ君はもちろん、まだ小さなティータ君も。
ああ。本当に……この国は眩しいね。
「太陽のようだよ」
ボクの素直な……珍しく素直な発言に、なぜかうんざりしたような応えが返る。
「どうしてだろうね。それでも太陽に焦がれるんだ」
繰り返すと突き放される。
「むむむ。そんなにおかしいかい?」
……強制的に切られた。まったく融通が利かないというか。
もう一度通信してやろうと思うけど、そろそろ席に戻った方がいいか。
沈黙する通信機を収めて客席へもどる。
彼女が何を選ぶか分からないけど、それはきっとあまり遠くない未来。
そして――ボクが決断をする時もまた、近い。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
SCでの一幕。クローゼ(正直)とオリビエ(嘘吐き)で。すっごい難産でした。
さすがオリビエ、思考回路がまったく読めなかったんですよッ