切れちゃった
大袈裟なため息が、凄く癇に障る。
「またハズレね」
しみじみと言うシェラ姉。
「そんなに言うんだったらシェラ姉も手伝ってよ」
「おあいにくさま。あたしじゃ餌を無駄にするだけよ」
「う~」
シェラ姉はそう言って軽く肩をすくめてみせる。
釣りを始めてからずっと、シェラ姉とオリビエは木陰から出てこない。
あたしはと言えば、アガットと一緒に竿をたらしている。
何でいきなり釣りかって言うと、依頼主が魚を必要としているから。
薬の材料にするみたいだけど、生憎その魚って言うのが……この辺りじゃあ釣りにくいのよね。
確かに釣りは好きだし趣味けど、この魚を釣らなきゃいけないっていうのは結構辛い。
ハズレのリベールブナをバケツに移して、餌をつけてまた竿を放つ。
風を切る音と一緒に、針は綺麗な軌跡を描いて小さな水音を立てた。
ゆらゆら。浮きがあわせて揺れる。
釣りは魚との真剣勝負。
かかったからって焦ってもいけないし、駆け引きが難しい。
さっきからあたしはリベールブナばっかり釣ってるけど。
横を見れば、アガットのバケツはいまだに空。
なんか、ちょっと嬉しいかも。
最初に会ったときから馬鹿にされてた分、こういう時嬉しい。
正遊撃士としての仕事でもあるし。……なんて。気楽にも言えないか。
五匹目のハズレをバケツに入れて、シェラ姉に聞いてみる。
「ねえシェラ姉。ジンさんは釣りするのかな?」
「さあ、どうかしらね」
一度ギルドまで戻って、皆で釣りするのもいいかも。
足りない竿は家から持ってくれば良いし。
あ、でもクローゼやティータは釣りしないかな。
というか、餌にするミミズとかにまず触れなさそう。
「ではどうかな? 気分転換に一曲」
「魚が逃げるでしょーが」
胡乱気に言ってもオリビエには通じない。
仕方なしにまた釣りに戻るけど。
アガット、さっきから全然動かないけど……餌だけ盗られてるんじゃないかな。
そんな風に思ってると、竿が大きくしなった。
「来たっ?」
「お。ようやくかな?」
駆け寄るあたしと対照的に、オリビエは悠然としてる。
かなりの大物なのか、魔獣と対決してる訳でもないのに警戒してるアガット。
リールをゆっくり巻いて……でも、魚も必死に抵抗する。
命かかってるから必死なのは当然なんだけど。
息すら詰めて。釣上げられる、その瞬間を待つ。
ぷちん
「「あ」」
軽い音を立てて糸がちぎれて、反動でたたらを踏むアガット。
でも皆視線は別の方。日の光を照り返す鱗。
それは空中で器用に向きをかえて、得意そうに水中へと戻っていった。
後に残るのは、それが残した波紋だけ。
「あーもう! せっかくつれてたのに!」
「今度釣あげりゃあいいだけだろう」
「あんですってーっ」
結局この後大騒ぎしたせいで、魚はすっかり逃げちゃって。
釣上げるのに苦労した事だけは記しておく。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
ネタバレはないはずですよね?
イメージとしては、SCのロレントのあの依頼ですけど、単純に釣りの話ってことで。
今回はエステルの一人称でお送りしました。