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PA

間違えた

 そう。なーんとなく。なんとなく思いついたのだ。
 カレンダーを破った時に目に付いたのは万聖節の前夜祭――ハロウィンの文字。
 子どもは仮装をして「Trick or treat」(お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)と近所の家々を回る。そんな日。
 にぎやかなイラストが描かれたそれを指差し、子どもだけじゃなく大人が仮装したって良いじゃないか、と。実際仮装パーティってモノもあることだし。
 そんなことをポロリともらしたことが、思えば間違いの始まりだったのかもしれない。
 丁度その場には、そういったお祭りごとが大好きな人たちが集まっていたのだから。

 結局のところ。PAで大規模なハロウィンパーティが行われる事になった。
 PAの敷地(ただし重要施設など無い、普段は演習に使われる広場)を開放し、一般市民の参加を募っていた。
「本当にやっちゃったねぇ」
 呆れたようにいうのは魔女の装束をした橘。
「こういったことに関しては、本当に早いのよね」
 しみじみと呟くのはシスター姿の山吹。
 ちなみにオレは包帯をぐるぐるに巻かれたミイラ男。
「警備とかってどうなってんだよ……というか、本当にするなよー」
「なんでさ? するしかないじゃない!」
 涙声で呟けば、明るい声が反論した。
 くわんくわんと反響するような高い声。
 そちらに目をやれば、でかいかぼちゃのバケモノ。
 ジャック・オ・ランタン?
 いや……なんとなく、くりぬかれた顔が愛嬌ありすぎるし、何故に服が白い着物と袴なんでしょーか?
 オレの疑問を知るはずもなく、掛け声かけて頭……かぼちゃを持ち上げて、声の主はにこやかに笑う。
 さらさらの金髪、ちょっと長い耳。見た目は子どもの。
「でたああああッ」
「失礼でしょ」
 思わず叫んだオレの横腹に山吹のエルボーが決まる。
 ……山吹、だんだん遠慮なくなってるぞ。
「レンちゃんかわいー。それジャック・オ・ランタン?」
「ううんー。モドキ」
 モドキってなんだモドキって。
 突っ込みたいのは山々だけど痛みが尋常じゃないから口を開けない。くぅ。
「ほんとに発案者が何言ってるかなー? でもありがとね。楽しいよ~♪」
「そ……それは、どーも」
「ねぇねぇレンちゃん。他は皆どこにいるか知ってる?」
「あれ? 見回れば良いんじゃないの?」
「あたし達一応警備だもん。ここ動けないんだー」
「警備?」
 レンテンローズ支部長は橘の言葉を繰り返し、きょろきょろとあたりを見回す。
「……シオンくんは?」
「しーちゃんは別のとこの警備ー」
「……そ、そう……思い切った事するなぁ」
 ぽそりと呟いたつもりだろうけど、生憎痛みにかがみこんでたオレには丸聞こえ。
 でも……確かに。
「えっとねー。エドモンドさんはキョンシーで、エドワードさんは司祭。
 エディリーンさんがフェアリーだったかな」
「……どーしてうちの年寄り連中はこう元気かな」
 肩を落とす橘なんて滅多に見れないものだけど……侮れないな、スノーベル家って。
 そんなことを思ってるとオレの腕輪からポーンと音がした。交代の時間だ。
「いーなー。かーくん交代かぁ」
「これってすぐに自由行動して良いのか?」
「上司に報告に決まってるでしょ」
「この中からシオン探すのか」
 うんざり気分であたりを見回す。人だらけのこの中を?
「シオンか団長か賢者様なら良いみたいよ。特に賢者様なら分かりやすいらしいけど」
 賢者様……銀の賢者様の事だよな?
 でも分かりやすいってどういうことだ?
「んじゃ探してみる。また後でな」
 ともあれ、オレはその場を逃げた。
 これ以上いたらずるいと八つ当たりされそうだったから。

 どこから探そうかときょろきょろ見回すと、見慣れた金髪が見えた。
「あれ、シオン?」
 人ごみの中でも何故か目立つその姿。
 前は不思議に感じていたけど、素性を知った今は納得できる。
 公爵家の人間ならカリスマありそうだし。
 いつも肩に乗ってる瑠璃はいないけど、あの後姿は間違いなくシオン。にしても。
「あいつだけ仮装してないってどういうことだよ」
 それともお偉方は仮装しないって言うのか?
 ……いや、魔法協会副会長筆頭に偉い人たちも仮装してるのにそれはないだろう。何はともあれ。
「シオン!」
 叫んでみるものの気づかない。あーちくしょー。
 人ごみを掻き分けて何とか近づき、肩に手をかけようとした瞬間、シオンが振り向いた。
 刈入れ時の麦穂の金の髪。楽しそうな瞳は紫紺色。
 紫紺色?
 シオンの目はこんな紺色に近い紫じゃなくってもっと赤みのある桔梗色。
 楽しそうに笑う顔は何度も見たことがある。よく見れば着ているものは普段の制服でも、体型はやはり丸みを帯びていて。
「あはは。これで五人目!
 うーんやっぱり似てるのねぇあたしたち」
「コスモスさん……?」
「そーよ」
 成功ーとか楽しげに笑う上司の姉にどーしろと?
「何されてるんですが?」
「仮装。最近シオン背が伸びてあたしと同じくらいになったでしょ?
 だからもしかしたら騙せるかなって思って」
 皆引っかかると心底楽しそうに笑う。
「あー。えー。じゃあ。シオンは?」
「確か吸血鬼の仮装してたわね。どこにいるかまではわかんないけど」
「そーですか……お邪魔しました」
 やはりスノーベルは侮れない。今度もさっさと逃げ出す事にした。

 とにかくさっさと交代連絡をしたい。誰でも良いから見つからないものかと探している内に、どうやら会場の端まできてしまったらしい。
「あー……行き過ぎたか」
 仕方なく戻ろうとすると視界に白いものが映った。
 川のほとりにある柳の木。
 その下に一人ぽつんと立っている女性。
 こくんと喉が鳴る。
 いや……いるはずが無い。
 確かにハロウィンの最中は本当の魔物も出てくるとかいう話もあるけれど……
 白髪で真っ白な着物を着て、悲しそうな声で何事か呟いている。
 聞いちゃ駄目だ。気づかれちゃ駄目だ。何とか逃げないと。
 そう思っているのに足は動かず耳は防げず……恐怖のあまり思考も停止する。
「どうして……ッ」
 嘆くような呪うようなその声を最後に、オレの記憶は途切れてしまった。
 だから、なんとなく聞き覚えのある声がしたのは気のせいだろう。

「だからその格好でそんなとこにいないで下さいって言ったじゃないですか師匠」
「好きでこんな格好してる訳じゃあありません!
 大体どうして私が雪女なんですか。そんな季節じゃないでしょう?!」
「そんなことおっしゃられても……」
「似合うなんて言われても全然嬉しくない」
「あのー師匠?」
「っていうか日影、私が雪女って言われるの嫌だって知ってて言ってるでしょう?!」
「師匠ー、剣と会話しないで下さい。私聞こえないんですから」
「にしても……気絶までするか?」
「まあ……賢者様の姿見たとき、正直ボクも本物かと思ったっすよ」
「それに関しては……」

 だから誰か、これは夢だったといってくれ……

一万HITお礼フリー小説でした。そのときのタイトルは「ちょっとしたひとことから」。
元々こっち用で書いていたものなのでこちらに追加となります。
06年10月のTOP絵と微妙なリンクをしています。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/