「星の数ほど、夢があるってね」
「大きくなったら何になりたい?」
問われた言葉に答えるのはいつも違った職業。
大工になって、お城を建てるのもいいかもしれない。
勉強も嫌いじゃないから、寺子屋の師匠もすてがたい。
それとも商人になって一旗上げてみようか?
だけど……だけど本当は、とっくに決まってる。
「聞きましたよ、鎮真様。
まぁた勝手に城下をうろついていらしたんですってね?」
にこにこ、にこにこと微笑みながらの茜の問いが少し怖い。
「うー、うん。
ほら、やっぱり自分が治める国のことくらい、知っておかなきゃいけないだろ?」
わたわたと手を動かしながら応える。
手を振り回すのが楽で不思議に思った。
ああそうか、着物の袖が短いからだ。……前みたいに女装してないから。
鎮真は少し前まで「志津」という名で女の子のふりをしていた。
父の後を継いだ叔父を欺くため。
このご時世、叔父と甥は近しい政敵。だが、鎮真は運良く叔父とは対立せずにすんだ。
何故なら叔父は我が子ではなく、兄の遺児である彼を後継に定めたのだから。
……とはいえ、完全に信用は出来ないのだが。
「そんな大口を叩かれるなら、立派なご領主になってくださいましね?」
「分かってるよ。大船に乗ったつもりで安心して」
胸を叩いて応えると、茜はしぶしぶながらも納得する。
領主になるのは最初の夢。
鎮真はまだまだ子どもだから、やりたいことはたくさんある。
どれだけかなえられるかなんて分からないけど、たくさん持つのはいいことだ。
そうして、彼は今日も新しい夢を紡ぐ。
「平気なの?」
これをしたい、あれもしたいと色々おっしゃる鎮真様。
だけれど、本当は気づいていらっしゃるのでしょう。
本当に叶えたいことはひとつだけ。
それはどうやっても叶うことなどない……見るだけ、見ることすら許されない夢。
かなえたいすべての夢と引き換えても、叶うことなどないもの。
時折、聞いてしまいそうになる。
本当に鎮真様はそれでよいのですか?
そんなこと出来はしない。
だから私は気づかないふりをして、今日も茶化すことしか出来ないのだ。
でも……もしも、もし叶うことがあるとするならば。
ふと夢想する。
あのかわいらしいお二人が一緒に暮らされるとなると……
お部屋の模様替えとか。
当然着飾りますよね。となると、どういったお召し物が似合うでしょうか。
あれもいいけれど、これも捨て難い。
ああ、分かっていてもつい頬が緩んでしまう。
「茜? 突然笑い出してどうかしたの?」
「いえいえなんでもございません。
……ふふふ」
「茜、よだれが……」
ついつい妄想してしまいました。by.茜。(07.07.11up)
お題提供元:[台詞でいろは] http://members.jcom.home.ne.jp/dustbox-t/iroha.html
やりたいことはたくさんある。どれだけ実現できるか分からないけれど。(07.07.11up)