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空の在り処

今宵、流星群の天(ソラ)の下

 彼はいつも空を見上げていた。
 特に夜は、仕事もあってかずっと見上げていたように思う。
「飽きぬのか?」
「仕事なのに飽きるから見ないってできないだろ」
 当然と言えば当然の答え。けれども。
「その割には、ずいぶん楽しそうだからの」
「嫌いじゃないしな」
 星を見るのは。そう続ける彼の横顔を眺める。
 かすかな光を映したかのように、きらきらと瞳が輝いて見えるのは気のせいではないだろう。
 彼は都一の星読みだった。星を読み、未来を予見する。
 違うことなく未来を当てる『指すの御子』などと呼ばれることもあった。
 陰陽師のわりに祓うことも祈祷も苦手だったけれど、たった一つすぐれた才があったから宮中のあちこちへ出入りしていた。
 彼自身は下級貴族の出のため、基本、請われれば出向かねばならない。
 噂が噂を呼び、とうとう昴の弟君に気に入られたとなれば、今度は彼自身を取り入れようと力が動く。
「また話があったようだの」
「人の口に戸はたてられないとは言うが、女房の情報は早いな」
「多少早いやもしれぬが、良い縁談だろうに」
「俺は――結婚できないよ」
「それもみたのか?」
「まあ、そんな感じ」
 歯切れの悪い返答。もやもやしたものが胸中に広がるが、それを飲み込みただ相槌だけを打つ。
「随分先までわかるとは思えんが」
「現時点で一番可能性が高い未来だからな、見えるのは」
「なるほど。一番残念な未来が見えておるのか」
「そういうお前こそ麦の君つきの侍女なんだから引く手数多だろ」
「わらわが選べると思っているのか」
「……悪い」
 声の冷たさに自分が驚いたけれど、相手は素直に謝った。
「まあ、さ。良き日が決まったら教えてくれよ。同期の誼で星読してやる」
 続けられた、気遣いからのだろう言葉に覚えたのは少しの苛立ち。
「覚えていたらな」
 だからこそ、そっけなく返した。

「あ、また流れた!」
「え? どこどこ」
「右だってみーぎー」
「彼女欲しい彼女欲しい」
「俺五つめー」
「十個見たもんねー」
 なんとも、騒がしいことこの上ない。
 今世紀最大の流星群だとかで、人が多いだろうと思ってはいたが。
 それでも彼女は嘆息を隠せない。
 せっかくだから、天体観測に良い場所で見たいというのは分からなくはないが。
 気まぐれなんて起こすんじゃなかった。
 星についての話題で、思い出さないはずがないのに。

ただ一人、立ち尽くす。
眞珠さんのその後。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/