091:祈りを捧げても (83文字)
苦しいときのなんとやら。都合がいいことなんて分かりきっている。
自分ならそんな相手は無視すると分かっていても縋ってしまう。
応えがないことだって、わかりきっているけれど。
092:見えない聞こえない (124文字)
どんなお姿? わかんない。
じゃあ、どんなお声? わかんない。
大人の問いに稚く答える、自らの依童。
子供の戯言と捨てることはたやすいだろう。
存在を認められぬことなど、今までいくらでもあった。
でも、いるよ。
だからこそ、その断言に、どれだけ救われたことか。
093:お願いだから (109文字)
両手を組んで、あるいは掴んで、言い募る。
無理をしないでくれと。必死なこちらの訴えに、返ってくるのはあいまいな笑み。
分かっている。本人に無理をしているつもりはないと。必要のある無茶もあることを。
けれどでも、どうかと祈る。
094:伸びた爪 (131文字)
だらしない。会うなり顔を顰められた。
何のことか分からずにぽかんとしていれば、連れて行かれた個室の椅子に座らされる。
手をとられて心臓がはねたが、続いて聞こえたパチンパチンと規則的な音に、すっと心が冷める。
ああ、やはりまだ、面倒を見てやるべき子供と思われているのだ。
095:逃げられない (107文字)
左を見れば険しい顔。右を見れば泣きそうな顔。ドアのある背後にはしっかりと見張りが立って、正面には笑顔だけれど目が笑っていない相手が鎮座ましましている。
どうしようもない。大人しくお説教が終わるのを待つしかないだろう。
096:武器 (68文字)
体に傷をつけることができずとも、心を傷つけることは出来る。
笑みで惑わし言葉で唆し視線で制す。
剣など持たずとも、この身一つで渡ってみせる。
097:大切なもの (75文字)
鍵をかけるの。綺麗な「箱」に全部全部つめて、しっかりかけるの。
それから、時々開けて眺めるの。触れなくてもかまわない。
そのくらい何物にも変えがたいから。
098:こころ (63文字)
ふわふわしてて形がなくて、重くなったり軽くなったり、ちょっとしたことで振り回されて。
だからこそ、大切で。しっかりと抱きしめた。
099:響く (81文字)
いつかも聞いた歌声。辛いときに口ずさんだメロディ。
まだ、三人そろっていたときにも聞いた歌。
歌で聞いたときには思わなかった。音だけになったそれはひどく物悲しく心に。
100:さよならと (95文字)
声に出さずに呟いた言葉に彼は振り返る。
「また今度」なんて嘘だとわかっていただろう。けれど彼は問いかけもしない。
そんな人だからこそ、今までそばにおいていたのだけれど。
今になって、別れが寂しい。
「描写する100のお題」お題提供元:[追憶の苑] http://farfalle.x0.to/