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2番目の、ひと

幕間 -Intervall-

 携帯電話が着信を告げる音に彼は嫌そうな顔をした。
 登録した相手ではない証拠に、ディスプレイの表示は公衆電話ときたら怪しむのは当然だろう。なにせ、ここ最近ずっと嫌がらせのように電話がかかってきているのだから。
 しかし彼は警官だ。いつどこで緊急事態が起こっているかはわからないため、電話をとらないという選択肢はない。嫌々ながらも電話に出る。
「もしもし」
 しかし聞こえてきたのは予想と違った、とても聞きなれた声。
「なんだ、久しぶりだな。元気にしているか?
 ……そうか。くれぐれも体には気をつけるようにな。
 しかし公衆電話からとはどうしたんだ? 落とした?
 ……届出は出したか? だめだ。自分で行って来い」
 いくら自分が警官といえど、落し物では管轄が違う。
 たまに連絡をよこしたかと思えばこの内容では叱りたくもなる、が。
「アル? 出かけているが、何か用事でもあったのか?」
 単純に彼は珍しいと思った。
 何時までたってもどこかぎこちない――他人行儀さが抜けない妹と弟。
 幼いころにあまり接点がなかったのがまずかったのだろう。親の都合とはいえ、妹は全寮制の学校に隔離されていたようなものだから。
 そのことを気にかけている身としては気になる発言に突っ込んで聞いてみれば、妙に楽しそうな返答がきた。
「ああ、知っている。その彼女とデートだろう。さっき出て行ったばかりだ」
 言った途端に返る落胆の声。きっと自分が知らないと踏んでいたのだろう。
 偶然から知ったものの、彼自身は感慨深い。弟もそれだけ大きくなったのだと。
「仕方ないだろう? むしろ引き止めてどうする。
 タイミングが悪かったな。今度ゆっくりアドバイスとやらをすればいいだろう」
 メールや手紙でもかまわないところをわざわざ電話してきた妹と、少しずつでもコミュニケーションをとろうとする弟のやり取りはほほえましいが。
 そんな風に思っていると、割り込んできたキャッチ音。
「悪い、電話だ。ああ、元気でな」
 名残惜しいがかかってきた電話を無視することが出来ない。
 ふっと軽く息をついて、邪魔をしてくれた電話に出る。
「もしもし」
 先ほどと違い、彼の眉間にしわがよる。
 もともと少しきつめの表情がさらにきつくなるのは当然だ。
「貴様か、何度言ったらわかる。いい加減にしないと」
 嫌がらせにしか聞こえない声に苛立ち混じりに言えば、相手は急に声音を変えた。
「何?」
 無視できない内容に、彼の顔が変わる。邪険に切ってしまおうと思っていたが、仕事に関わることとなるとそうもいかない。しかし。
「なぜそれを教える? ……ふん、どこが協力的だったというんだ?」
 突き放す言い方にも相手は態度を変えることはない。
 知っているからだ。この話を無視して損害をこうむるのはこちら側だということを。
「何?」
 重ねてもたらされた情報に考えることしばし。
「わかった。情報協力感謝する。だが、これは我々の仕事だ」
 一方的に言い切って、電話を切る。家の電話なら受話器を投げつけるような勢いで。
 忌々しいことこの上ないが、慌しく上着を取って家を出る。
 大通りに出てタクシーを捕まえ、扉を閉め切る間も惜しいといった様子で行き先を告げる。
「急いでくれ、ブラオンヒューゲル植物園まで」
 何事も起きなければいい。そこは今日、アルトゥールが彼女とデートをしている場所だったから。