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ソラの在り処-暁天-

獣達の晩餐会

 魔法の明かりに照らされるのは、この時世にしては豪華な食事。
 広間に響くのは人々の談笑の声と食器の触れ合うかすかな音のみ。
 外からの音は入らない。無論中の音も外までは聞こえない。
「そちらは如何ですかな?」
「幸いにも今年の冬は満足に越せそうですよ。後は収穫を待つのみです」
「我が国も幸いにして食料には困る事はなさそうですな」
 交わされるのは本日の料理の事、その国々の近況。
 このあたりはごく普通の晩餐会と同じ。

 それはある一人の言葉から始まった。

「ああ。彼らの事ですか」
 一人が相槌を打つ。
「英雄殿は大変ですな」
 互いに腹の探り合い。
 晩餐会で和やかになどといったところで、所詮はここも外交の場。
 フリスト、レリギオ、セラータ、アージュ……各国の思惑が入り乱れる。
 戦を収めるために利用した者達は『英雄』として祭り上げられる事になった。
 それはもちろん狙いのうち。
 しかし力をつけた『英雄』を国が嫌がるのも世の常。
 権力にまったく関係のない市井の者なら多少の褒章を出しておだててやれば事も済む。
 だが王家の人間が『英雄』となると話が違う。
 もともとの王位継承権は高くはないのに、王族で『英雄』だから王になってもかまわないんじゃないかといった声があちこちからもたらされる。
 王位を虎視眈々と狙うものは多い。
 例え今座っていたとしても、君臨し続ける事はたやすくはない。
 『英雄』を持つ国も頭が痛いが、持たない国も頭が痛い。
 彼らをどうするか。今回の集いはそれが本当の議題だった。
 ワインを片手に、一人がさりげない風を装って言う。
「そういえば面白い話を聞きましたが」
 どこの国の人間だろうか。濃青の服の青年がレリギオの者であろう白い服の者に聞く。
「なんでも『英雄』はソール神より人よりも長い寿命を授かったとか?」
「ほうそれは興味深い」
 案の定、青年の思ったとおりその話題に食いついてくる者がいた。
 こうして水を向けてさえやれば、後は様子を見るのみ。
「かの伝説のようですな」
 のどの奥で笑いを漏らし、緑の服の老人が言う。

――姫をさらい、人々を困らせていた竜を倒した勇者は、神より祝福を受け常人とは比べ物にならない寿命を得たという。だが彼は「自分を娶り王になって欲しい」という姫の想いに応えずに、人々を助ける旅へと出たという――

 口々に同意の声。
 ほら。こんなに簡単に。
 話題を振った青年はほくそえむ。
 戦の終わった今、『英雄』達は不要の存在。
 とはいえ自分が口出すのはここまで。後は彼らのお手並み拝見と行こうか。
 手にしたワインを飲み干し、陰謀を練る人間達を嘲笑う。
 これで再びゲームは続く。『英雄』達を駒にして。
 さて、ハッピーエンドはありえるかな?

 思いは同じ。ならばためらう事などない。
 『英雄』達には旅に出てもらおう。
 終わりなき、人の夢の中へ。

所詮政治の世界なんてこんなもの。というひねくれたものの見方から。
でも実際の話「英雄」っていうのは、その結末が「しあわせにくらしました」で終わるものって少ないんですよね。この話から「ソラの在り処」のプロローグ的になります。(05.04.13up)

最後の約束を

 たった一つ、自分に誓った。
 大切な人を守れる。そんな魔法使いになりたいと。

 私も皆を守るね。
 そう宣言をした私を、ユーラはちょっと困った顔で見た。
「ポーラに守られるってなんか変な気分」
「変じゃないわよ」
 確かに剣は使えないし、武術に関してはせいぜい自分の身が守れるか程度の腕しかないけれど。それでもどうしても譲れないことだってある。
 かなえたい事は一つだけ。
 『私のせいで誰も傷つかないように』
 だからこそ頑張った。魔術を学んだ。
 追われたり、酷い戦いもあったけれど……それでも何とか生き残れた。
 それで多少は自信がついた。
 私にも守れるものがある。
 多少の力はある。と。

 それなのに……

 私がいると、それだけで皆が困るのだと。
 争いの種になるのだと。
 ……破壊しか生まないのだと。
 幼いときから……私が『ミュステス』だと分かった日から、ずっと言われてきた言葉。
 そんな事ない。
 別の、良い物だって生み出せるはずだと……そういい返せるようにはなったけど。
 本当に?
 自分の心が問い返す。
 それは本当に良いもの? それは保障できるの?
「あなた方が生きていても人の世に災いを呼ぶばかりなのですよ」
 これは誰の声? 頭に直接響くような。
「貴女がその首を差し出すならば、他の方は見逃して差し上げましょう」
 見逃す? 他の……
「戦の終わった今。『英雄』は不要なのですよ」
 悪意に満ちたその声音。

 いつもここで目が醒める。
 外は闇。でも……それ以上に自分の心の中も……闇。
 疲れているのは確かだけど寝たくない。
 眠るとあの夢を見るから。
 ――仲間を助けたかったら、自分の命を差し出しなさい――
 こう何度も見るとただの夢とは言い切れないと思う。
 それに、少しばかり嫌に符合する点もある。
 自分達が『英雄』と呼ばれている事。
 戦が終わってまだ半年足らず、ほとんどの国が復興に必死になっている。
 そんな中いくつもの国で次の王座を巡っての争いがある事だって知っている。
 直系の王家がなくなってしまった国もある。処刑された王だっている。
 『英雄』を王にという声もあるらしい。
 各国の王が警戒している事だってわかる。自分達は非常に微妙な位置に立っているのだという事も。
 民衆はどちらをより支持するだろう?
 その事を父が酷く恐れている事。
 ころんと寝返りを打って考える。
 疲れているはずなのに。眠る事は出来無そうだった。

 約束を守ってアースが遊びに来たのは数日後の事だった。
「んーっ」
 大きく伸びをして深呼吸。
「やっぱりここは気持ちいいですね」
 誰にとも無くアースは呟く。
 街の裏手の高台。城の中に引きこもってばかりいるポーラに休みをあげたいと思っていた人間は少なくなかったようで、すんなりと外出の許可が出た。
 強い風が二人の髪をさらっていく。
 そのまま草原に座って互いの近況を報告したり、かつての仲間の様子を話したり。
 和やかな時間がすぎた。表面上は。
 ふぅとため息一つ。
「どうしたの?」
 少しトーンを落とした、とても優しい口調で聞かれて。
 決心が鈍りそうになる。
 いつもいつも迷惑をかけてきた。親代わりのこの叔母には。
 だけど。明るい……なんでもないような口調で問い掛ける。
「昔、どんなお願いでも一つだけ聞いてくれるって約束したよね?」
「ポーリーがなかなか魔法使えなかったときでしょ?」
 くじけそうになるポーラをそうやって励ましてくれた。
「だからね……アース。お願いがあるの」
 ひたと見つめれば、アースも真剣な眼差しで見返してくる。
 分かってる。それがとても酷い事だということは。彼女を裏切るような事だとも。
 でも。
「叶えてくれる?」

 守れるなら、何も惜しいものはないから。

思いっきり悲壮感漂ってますが、一番立場が危ういのがこの子な訳で。
色々と悟ることがあって、決意しちゃったんです。(05.05.04up)

過去と未来の境界線

 もう一度言われたなら、たぶんそれは最終警告。
 だから心はもう決まっている。
 自分で納得して、自分で決めて。
 それなのに、なんでこんなに……

 いつものように仕事をしていると響いたノックの音。
 その主は予想に反して父だった。
「父上、どうされたのですか?」
 父が自分を訪ねてくるのは珍しい。
 朝は一緒に食事をしているが、父はとても忙しい。よっぽど重要な話なのだろうか。
 ところが父はどこと無く落ちつかない顔で聞いてくる。
「いやその……お前ももうすぐ十八だろう?」
「ええ」
 確かに後二ヶ月もたてばポーラの誕生日は来る。
「となれば、だ」
 そんな娘に対してこほんと咳払いをしてアルタイルはもったいぶった言い方をする。
「色々と準備する事もあるだろう? 色々と」
 十八……準備。
 連想してポーラは顔には出さずにげんなりする。
 お見合いの話だろうか。
 というかミュステスである自分にそんなものが関係あるのだろうか。
 思うと同時に鈍い痛みがする。
「ポーラは父を応援してくれるな?」
「はい?」
 唐突な言葉に思わず問い返せば、父は真剣な面持ちでポーラを見つめている。
「頼むから応援してくれ。そうすれば離れずにすむ」
「?」
 何の事だろうか。父を応援、離れずに。
 父を倒したその相手に嫁がされるという事だろうか?
 ならば、答えは一つ。
「はい」
 にっこりと微笑んで答えれば、父は見るからにほっとして破顔する。
「お前に手紙を預かってきた。早めに返事を出しなさい」
 そう言って手紙をテーブルに置くと、意気揚揚と帰っていった。
 父を見送ってため息をつく。
 どこの誰かは知らないが、ごめんなさいと謝りたい。
 もしかしたらどこかで会った事はあるかもしれないが、セラータでは最強の異名をとる父を相手にしても良いと思ってくれてるにもかかわらず、私は。
 どうしても、守りたい人たちがいる。
 そのためなら何でも差し出すと、そう誓った自分。
 想いは変わらない。
 もしかしてこの手紙の主が決闘相手だろうか?
 だとしたらなるべく丁寧にお断りしよう。
 そう思って手にとると、それはとても見覚えのある字で。
 慌てて封を開けて読む。
 今まで何の便りも出さなかった非礼を詫びる言葉から始まり、近況と、来月にはここを訪れる旨が書かれていた。
「……ッ」
 嗚咽が洩れそうになった。
 会う事を前提にして書かれている手紙。
 会えないだなんてかけらとも思っていない、その文章。
 ごめんなさいごめんなさい。
 心の中だけで謝罪する。必死に歯を食いしばって、こぼれそうになる感情をこらえる。
 約束を破ってごめんなさい。
 それでももう決めたから、何を犠牲にしても良いと決めたから。
 だからアースにだって言った。とってもひどいことを頼んだ。
 過去も未来もなくしても良いから、守りたいと、そう思った。
 細い細い糸の上。そこだけが自分の居場所で良いと思った、はずだった。
 いや――そう思う。今でも。
 守れるならどうなったっていい。
 だから……心がくじけぬうちに手紙を収めた。
 二度と目にしないために。

 震える声で呪を紡ぐ。
 どうしてこんな時にあんな事を思い出すのか。
 頭を振って、ポーラは術を完成させた。

「過去(月の行方)」と「未来(ソラの在り処)」の境界部分の話。
『最後の約束を』以上の暗さでお送りしております。……最後の最後はハッピーエンドですからっ(05.09.21up)

「ファンタジー風味の50音のお題」 お題提供元:[A La Carte] http://lapri.sakura.ne.jp/alacarte/