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騒々しい日々

「はい?」
 訳が分からず、楸はとりあえずそうとしか返せなかった。
「だ、か、ら」
 相手――同級生になる少女――は苛立ちを抑えるように一言ずつ区切るように繰り返す。
「二股なの? まさか三股?」
「そもそも話が読めないんだけど?」
 出会い頭にいきなり何を言い出すのやら。両手で抱えた資料を持ち直し、困惑の表情を浮かべてみせる。
 そうすれば、相手はぎっと睨みつけてきて棘のある口調で問うてきた。
「橘さんは誰と付き合ってるの?」
「アーサー。アルトゥールだよ」
 間髪入れずに返せば、ますます視線が鋭くなる。
 なんだろう? もしかしてアーサーのこと好きなのかな?
 そんなことを予想しつつ、楸は彼女の反応を待つ。
「じゃあなんであんなに男子侍らせてるのよ!」
 叩きつけるように叫ばれた予想外の内容に、どう返せばよかったのだろう?

 そんな今朝の出来事をたまたま目撃してしまったらしき梅桃は、テーブルに突っ伏したまま肩を震わせている。よっぽど可笑しかったんだろう。彼女がここまで笑うとは。
「笑い事じゃないって」
「ごめ」
 謝りながらも笑いの波はまだ止まらないようで、顔を上げることなく肩を震わせている。
 このままでは倒してしまいそうなティーカップとケーキをそっと彼女から離しつつ、楸は憂鬱そうに口を開いた。
「モテる彼氏で大変ーとか思ってたらコレだよ。目移りしてないのにさー」
「やめてこれ以上笑わせないで!」
 失礼な、との意味を込めてジトっと見れば梅桃はようやく落ち着いたのか顔を上げる。
「にしても侍らせるって、マンガかゲームのやりすぎじゃないの?」
「ゆすらちゃん抜けちゃったから、うちのチームあたし一人だもんねー。だからってあれはないと思うけど」
「紅一点っていうのが羨ましく見えるのかしら?」
 ごく普通の高校生ならそうなのかもしれない。一応社会人だと、あまり気にしなくもなるのだが。
「そうは言っても、うち二人は上司兼従弟と従姉婿ほぼ確定だよ?」
「傍からじゃわからないでしょ? その従弟を率先してれば」
「アーサーは納得してるみたいだけどねー。表面上は」
「そう思ってても、離れられないものね」
「ゆすらちゃんは話早くっていいなぁ」
「それに、職場が男だらけでずるいって言われてもね」
「まーねー。基本男女比偏ってるもんねー」
 捜査団全体でみればそうでもないが、実働部隊の男女比は偏っている。
 それは、捜査団の卵を育てるこの学校だって似たようなものだというのに。
「上司が身内ってやだね。遠慮なしにあれこれ仕事回されるし」
「事務も面倒よ。身体的な危険が無いから、大人の新人とほぼ同じことさせられるもの」
「へぇ」
 同じチームでなくなってから、相手と話す時間が減った二人はここぞとばかりに花を咲かせる。
 ゆっくりおしゃべりできるなんて滅多にないもんねーなどと思っていたのが悪かったのか、早くも遠くから大声で呼ばれた。
「あー」
「仕事でしょ、いってらっしゃい」
 かわりにここはおごってあげると言われ、楸は苦笑を浮かべる。
 ただ授業を受ければいい他の生徒と自分たちは違う。
 だから、途中で仕事が入るなんてよくあること。
 だんだん大きくなる呼び声に、こちらも大声で返して、楸は主の元へと向かった。

まだ子供だし、学生らしく楽しい日々を。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/