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どこかとおくで…

沸き起こる感情の、その名前

 さやさやと吹く風が大分冷たくなった。
 稲穂も頭をたれていて、今年の出来も上々っぽい。
「来週ごろには稲刈りかな?」
 僕の言葉に先生は唸って返す。
「そこまで待たんでもいいだろう。台風が来る前に収穫したいもんだな」
「そっかー」
 先生は昔農業高校を出たって言ってた。
 でも結局農業には進まずに公務員になって……今はこうして農業をしてる。
「でもさ。自分で作ったご飯っておいしいよね」
「まあな」
「もっと早く分かってればよかったな」
「そうか」
 こんな事、言うもんじゃないって本当はよく分かってる。
 でも。
「農家の人が苦労して作ってくれたんだから残しちゃ駄目って小さいころ言われたなあ」
 僕の言葉に、同じく縁側で休憩を取っていた環さんが乗る。
「清のとこは結構古いのね。私は『もったいないお化けが出るぞ』って言われたわよ?」
「環はもったいないお化け分かるのか」
「私はどっちも言われたな。懐かしい」
 昴さんはびっくりしたように、氷火理さんは言葉どおり目を細めて遠いものをみるように言う。
 確かにコメを作るにはすっごく手間がかかる。
 こんなに苦労するなら残すなんてもったいなくて出来ないし、しちゃいけない。
「でも台風かー。またどこか壊れるのかな」
「まあ壊れたところを重点的に補修していけば、いつか災害が少なく」
「しないとまずいわよね」
「天気予報があれば良いのにね」
 茶化すつもりで言った言葉。
 でもその一言でみんなの顔から表情が消える。
 言うんじゃなかった。
 僕がよっぽど酷い顔をしてたのか、困ったようにそれでもみんなフォローしてくれる。
「それはちょっと難しいかなぁ」
「うんうん。気象衛星なんてないしねえ」
「っていうかテレビが無いし」
 からからと笑うけど、無理に笑わせているのが分かるから。
「テレビって言えば、村テレビ毎週見てたんだけど。
 こうやって自分がその立場に立ってみると、結構役に立つのよね」
「じゃあそれに倣って炭焼きとかレンガとか作るか? いずれ」
「うんうんさんせー」
 背けられない現実をあえて無視して明るく振舞う。
 そうしないときっと生きていられないから。
「この間のサクランボの種さ、来年絶対植えようね」
「サトウニシキだといいな」
「一粒数百円とかいう?
 ……でも確かに国産は美味しいな」
「うん。アメリカンチェリーより絶対美味しいよね」
「国産のサクランボって贅沢な気がするわよね」
 ここがどこかなんて分からない。
 黒かった髪の毛は、少しずつ違う色に染まっていく。
 それがお前はここの人間じゃないと、明確に告げられているようで……怖い。
「こらこらまだ植えても無いのに」
「いいじゃないですか。夢くらい見たって」
「それよりもまず稲刈りだろ?」
「それはそうね。のんびりしてたらすずめに食べられちゃうわ」
 目の前に広がる田園風景は、典型的な田舎の風景で。
 この中の誰かの故郷だって言っても可笑しくないのに……

 帰りたい。帰れない。
 この思いをなんと呼ぶかなんて知ってる。
 だけど、それを認めることは……ない。

「セイナルカガミ」と同じで語りは清。
環はなんてつけようかなぁ? やはり漢字……なのだろうか?

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/