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しんせつ

区切りがつかない思いと想い

 最近、周りが騒がしい。
 理由は……なんとなく想像つく。
 ふはーとため息漏らしつつ、鎮真は空を見上げた。
 ぽかぽかとした陽気。今年は随分寒さが居座っていたが、皐月も中頃になってようやく暖かくなってきた。
 紙コップのコーヒーをちびちびやりながら、やはりついつい考えてしまう。
 足繁くPAに通うのは必ずしも仕事目的じゃない。というより、大半が仕事じゃない。
 こういうと、ものすごく青いことだが――ただ想い人に一目会いたいがため、である。
 彼の行動は話題だったし、冷やかされることも多々あった。
 毎回温かく迎えてくれるわけでもなし……というか、想い人に限定すれば歓迎されたことなどない。はっきり言って、一度も。
 あ、哀しくなってきた。
 ……姫の髪色が戻った時もかなりざわついていたようだが、今回のそれは比較にならない。
 先程から無視しようと務めている相手、ずうずうしくもこれだけ人気のないテラスでわざわざ合席しにきた彼も、コーヒー片手にほーと息をついた。
「しっかし、賢者様が双子だったとはなぁ」
 名はエドモント。姫様の姉上がたの子孫にあたる。
 いくら故国に戻られることがないからといって、尊い方を無碍には出来やしない。
「生まれつきか弱い方でしたから、本当にひっそりと暮らされてきたそうですので」
「ほー、それでやたら嬉しそうにしてるわけか」
「きっと、一緒に過ごせることが嬉しいのでしょう」
 嬉しくて仕方ないって、実際そういう顔をしているし。
 本当、妹姫に対してだけあれだけ甘いんだから。
「そうか、本命は賢者様じゃあないほうか」
 しみじみといわれた言葉。本当ならはぐらかすなり何なりするところなのだけれど。
「というか、普通わかりますよね? 分かりますよね、いくらなんでも!」
 思わず切実さすら滲ませて詰め寄ってしまった彼。
 何かを感じたのか、乾いた笑みでエドモンドは返す。
「分かってもらえないと?」
「妹に近寄るなの一点張りですよ」
「おんやまぁ」
 そりゃご愁傷様と軽い言葉。
 赤の他人、第三者から見ても分かるって言うのに、なんで本人が気づかないのか。
 可愛い妹に近寄るなと言っておいて、ちょっと妹が褒められると嬉しそうにするくせに。
 大体、一卵性の双子なんだから同じ顔しているんですよあなた方はッ
「どうしたら信じてくださいますかねー」
「こういうときこそ引いてみたらどうだ?」
「……一月ほど、忙しくてまったく連絡取りませんでしたけど、何もありませんでしたよ。むしろまた出てきた的な反応を」
「うん、もう少し飲み物欲しいな。コーヒーでいいかな?」
「……カフェラテと、何か……シュークリームかプリンもお願いします」
 さわさわと往く風に罪は無いけれど、ああ、空しい。

 ところ変わってこちらは室内。
 いつものようにこなすのは書類関連の仕事。
 そろそろ肩凝ったなーとのびをすれば、いそいそと双子の姉が茶器を持ってきた。
 今日のお茶請けらしきプリンは生クリームがのった、いかにも甘そうなもの。
 もちろんプリンは一個だけ、姉のものだ。なにせ自分はとことん甘味が苦手だから。
 お団子あたりなら食べられるものもあるんですけどね。
 でも、姉が好きなのは甘いお菓子で、持って来る相手もそれを知っている。
 ほんの数時間前にやってきた相手は結局、仕事の話もろくにせずにお土産だけを渡しに来たようなもの。
 そのことをぶつぶつ言う姉に、以前から思っていたことを聞いてみた。
「姉上は鎮真が嫌いですか?」
「え?」
 きょとんとこちらを見る。まるで、予想外のことを言われたみたいな。
「嫌いなら、 ここへ通さないように徹底させますけど」
「それ、仕事は大丈夫なの?」
「あえて顔を合わせないといけない案件なんて、そうありませんよ?」
 そういうものなんだという表情。
 本当に姉上は分かってないんだなぁと思う。
 身内の贔屓目で私に構うけれど、私たち一卵性の双子なんですから。
 私への褒め言葉は全部、姉上にも言えると思うんですけど。
 そんなことを思っていたら、まだ何か複雑そうな顔で悩んでいる姉上が目に入る。
 これは……助け舟を出しましょうか。
「でも咲夜さんに会えないのは寂しいですよね」
「そう、あのこ可愛いもの!」
 我が意を得たりといった様子で頷いて、それから恐る恐るといった様子でこちらを見て。
「現は、鎮真が嫌いなの?」
 聞かれるかなと思っていたので素直に答えます。ええ。
「実は結構」
「結構?!」
 びっくりして大声出して、それから何か考え込むようにしてプリンを食べる。
 なら、安心していいのかしら。
 嫌がる現に無理強いは、したら、考えるだけでも許さない。
 ……全部筒抜けなんですけどね考えが。
 『壱の神』と離れたから、かなり聞こえにくくなったはずなのに、こんなにはっきり聞こえるのは距離のせいか、それとも双子だからか。
 姉上は安心しているかもしれないけど、私としては……安心、は、少し出来ないかも知れませんね。
 ま、私は姉上が幸せなら、それでいいんですけど。

おしまい

アップを忘れていた6周年記念SS。
鎮真→空:好き。気づいて下さいよいい加減。鎮真→現:頭が上がらない上司に近い存在。
空→鎮真:嫌いじゃないが気に入らないし気になる。現→鎮真:利害関係が多いけど友達。