君でなくては
並んでいると、どちらがどちらか分からない。
まして、以前とはまとう色が変わってしまったゆえの混乱もある。
慣れれば、見分けられるようになるとはいうが、そもそも慣れるほどによく会う相手でもない。
そう訴える相手に鎮真はちょっと優越感を抱く。
大抵、見分けられなかった相手は、直接本人確認をとれない場合はこうして鎮真を頼ってくる。
数少ない『彼女たちを見分けられる相手』と見られていることが単純に嬉しい。
いつのことだったか、そういった話をしたことがある。
「そんなに分かりにくいものかね」
似ていることは否定せずに呟けば、『彼女』の直弟子は控えめに同意する。
「慣れしかないでしょう。あまり会わなければ、差を見つけること自体が難しいでしょうし」
さらさらと書類に何かを書きつけつつ――つまりは仕事をつづけつつ答える彼。
来客に対する態度ではないが、押しかけてきた顔見知り相手には鎮真もよくやることだ。
「師匠はいつも笑顔ですけど、お姉さんはいつもピリピリしてますよね」
そんな、何気ない会話に驚かされた。
大抵、彼女たちの話題になれば基準になるのは末の姫。
当然だ。今まで表に出ていたのは――『生きている』の方が正しいかもしれない――彼女の方だから。
それを驚くくらい、自分にとっての基準は彼の姫だと気付かされた。
あの人とその姉。
あの人の妹とあの人。
同じ人を指しているにもかかわらず、この受け取り方の差。
「ここ、いいですか?」
問いかければ、隠すことなくあからさまに嫌そうな顔。
「他にも席は空いています」
つっけんどんに応える空。しかし鎮真はめげずに答えた。
「ここがいいんです」
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貴女のそばがいいんです。そう口に出してみても返事はつれないもの。