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2番目の、ひと

【Step5 そしてこれから】 1.ひとつのウソ

 事情聴取されて、結構あっさり帰されて……次の月曜日。
 変わったことは特にありませんでした。
 あの場所は『火事があったから』立ち入り禁止になっていましたけど、生徒への説明は特に何もなされず、表面上は変わった事はないままでした。
 事態が変わったのはさらに翌週、フェッリ先生が辞めることになっただけで、それ以外は本当に何もありませんでした。
 まあその……やたらと『遊びにおいでー』と言われたり、行ったら行ったで勧誘されるようにはなりましたけど。
 ちなみに兄さんへの勧誘は続いていますが、兄さんの反応も相変わらずといえば相変わらずです。
 本当は知っているんですけどね。PAに興味がないふりしてるってだけということは。
 でも、入団してしまうと僕のことが心配なんでしょう。もう少し頼ってくれてもいいんですけど。
 だから、僕がフェッリ先生――フェッリさんの話を聞いて、PAに興味を持っていることは気になっているようです。
 多分、兄さんは僕に興味を持ってほしくないと思っているでしょう。
 警察官だって危ないことは多いのです。PAは、その上を行く危険さだと聞きます。
 そういうことはさせたくないって思ってるんでしょうね。ときどきすっごく不機嫌な顔で見てますもん。
 あ、姉さんだってそうなんですからね。
 聞きましたよ! フリッツさんが姉さんの恋人だって!
 フリッツさん本人には何の問題もないけれど、警官だから賛成できないって兄さん言ってるんですって?
 兄さんてば自分も警官なのに何を言ってるんでしょうね?
 フリッツさんはルッツの気持ちも分かるって言ってましたけど。
 まあ姉さんのことは姉さんが頑張るでしょうからいいんです。
 僕はというと――

「別に今からでも入団試験は受けられますヨ?」
 後ろめたい気持ちがないわけではないですが、コートさん家に入り浸ってます。
「一応十五歳以上に資格はありますからね。中学校卒業していれば十分です。
 何せ慢性的な人手不足ですからねぇ。青田買いどころか早苗買いしなきゃ間に合わないんですよ」
「そうなんですか」
 本当は、こんな話を聞きに来たんじゃなく、サキに会いに来たのですけど……留守でした。まあ連絡なしに来た僕が悪いんですけどね。
 でも、玄関で回れ右をしていればこの状況はなかった訳で。そして話の内容にまったく興味がないわけでもないのが問題です。
 正直、小さい頃に興味を持っていて、でも情報がなかった職業ですから。
 それに、聞けば聞くほど興味は結構わいてくるのです。
 つまり――なれたら良いな、とか思ってきちゃうのです。
「まあのんびり考えれば良いですよ。大学出てから入っても良いですしね。
 ただ……早めに来たほうが彼女と一緒にいられる期間は増えるかも知れませんねぇ」
「え? あ!」
 そういえばそうでした。サキはあくまで『短期』留学扱いなのでした。
 付き合うことになってから、長くても半年もいないとは言われてましたし。
 それを考えればもう一月……いえ、二ヶ月近く経っているのですから。
「サキ、もうすぐディエスリベルに戻るんですか?」
「具体的にいつかは聞いてませんけどね、コートは知ってるかい?」
「いや、まだ聞いてない。それよりも、あまりフォルトナー君を困らせるな」
 そういいながらお茶にお菓子にと世話を焼いてくれるコートさん。
 こうおもてなしをされるとなかなか席を立ちづらいんですけど……わかってやってるんでしょうか?
「ただいまー」
 そういう話をしていたらサキの声がしました。
「あれ? アーサーいらっしゃい」
「アル?」
「え? アル?」
「なんだ客がいたのか」
 あれ、なにか足音がかなり多いです。それに何かとても聞き覚えのある声がしました。連続で。
 サキを先頭に入ってきたのは。
「兄さん? フリッツさんも……レンダーノ先生?!」
 僕の叫びに、睨むというよりも呆れの色濃い目でレンダーノ先生がフェッリさんを見ます。
「何で一般人を呼び込んでるんだ」
「いえいえ、鋭意勧誘中の相手。未来の団員ですよ?」
「未来の、だろうが。まだ一般人だ」
「まーまー先輩。フォルトナー刑事の身内ですから」
「それは理由にならん」
 あれ? なんだか学校での様子とかなり違います。
 それに、レンダーノ先生って魔法使いに偏見があるんじゃ?
「アルトゥール、何故ここにいたんだ」
 ため息交じりの兄さんのせりふに思わず視線を泳がせて。その先を追われてさらにため息つかれました。
「まあ、そうか。そうだな」
「え? あたしのせい?」
「ううんサキのせいじゃないよっ 連絡せずに来たわけだし」
「引き止めたこの馬鹿のせいだろう」
「まったくごまかす気のない先輩もどうかと思いますが」
 コートさんの控えめな言葉に、レンダーノ先生はソファにどっかりと座っていいます。
「ここまで来ては誤魔化し様がないだろう。それにここでの仕事も終わるんだ」
「え……え?」
 あれ? この流れってもしかして?
「レンダーノ先生ももしかして……」
「カーディナルを束ねている」
「うちのチームの隊長ですよ」
 やっぱりーっ
 というか、なんで先生になってたんですか?
 しかも仕事が終わったって?
 僕らの学校に何があったんですか?!
 いろいろ、聞きたいことはたくさんあります。ありますが。
「……何で教えてくれるんですか」
「言わなくても想像できるだろう?」
 出来れば知りたくなかったと言外に漏らせば兄さんとフリッツさんは同情のまなざしで見てくれます。
「それに君は賢い子だ。現に根掘り葉掘り聞いてこない」
「……兄さんの仕事が仕事ですから」
 そんな怖くて聞けるわけないじゃないですか。でも、ひとつだけ聞いておきたいのは。
「サキのバイトって……先生たちの関係だよね?」
 確信を持って問いかけます。
 だって、この状況でサキだけ無関係ってありえませんよね?
 そして案の定サキは気まずそうな顔をして、ぺこりと頭を下げました。
「ごめんアーサー。一個だけウソついてた」
「え?」
「バイトじゃないんだ。正社員……や、社員じゃないか。公務員」
 あははと笑う彼女の姿を改めてみてみれば、黒いワンピースと思ったものは意外と時代がかったもので、片手にかけるように持っているのはこの時期には似つかわしくないストール状のものです。いや、ストールにしてはなんだか長い気もします。
 ポンチョ? 前を留めるボタンのような金具に、どこかで見たような紋章が彫られていました。
「国際魔法犯罪捜査団、チーム・アルブム所属精霊術士、橘楸でっす」
 茶目っ気たっぷりに敬礼なぞしてみせるサキに対して僕が出来ることはなく。
「アーサー?!」
「アルトゥール!!」
「アル! しっかりしろ!!」
「おやまあ」
「冷やすもの! 氷!」
「それより回復魔法かけてやれ」
 よろけた挙句、頭を強かにぶつけてしまい。情けなくも気絶してしまったのでした。