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2番目の、ひと

幕間 -Intervall-

 胃が、痛い――
 ここに来てから何度目になるか分からない症状に、彼はため息をついて水を飲む。
 そろそろとっておきの水も少なくなってきた。
 味的にこちらのほうが好きだから常備していたのだが、同居人が硬水を飲むとすぐに体調を崩すため――そう、同居人。
 年下の女の子を預かれという無茶ブリに、反対したのは一度や二度ではない。
 なのに、相手はあの手この手で彼をなだめすかして終いには承諾させてしまった。
 もちろん彼自身、落ちてしまった自分が悪いということはよーく分かっている。
 が、それでもこの状況はまずいだろう。
 部屋にはちゃんと鍵がかかるし、ルームシェアしていると思えばいいのかもしれない。
 彼女自身に問題はない。今のところ。
 予想していたよりはまともに見えるし、行儀が悪いともいえない。
 ……食事関係だけは絶対に任せられないが。
 掃除は苦手だと自己申告していたが、監督つきなら何とかなるらしいことも分かっている。
 申し訳なさそうに、頼みますと連絡してきた保護者……になるだろう相手にも答えたとおり、そこまで面倒な相手でもないのだ。一応。
 単に比較対象が悪いのかもしれない。
 それはそれは手間のかかる友人を持っている自分だけに、ないとは言い切れない。
 ただ……それでも。
 聞いてきた噂をかんがみるに、何事も起きないと思うのは楽観的過ぎるだろう。
 それに加えて。
「ただいまーぁ」
「泊めんといっただろうッ!?」
 厄介な友人が戻ってきた。
「イヤですねぇ。そんな無理やり泊まったりしませんよ。高校生と同居して喜んでるコートの気持ちも考えて♪」
「いい加減にしないと殴るぞ」
 こぶしを握り締めて言うものの、意味がないことは分かっている。
 単純に力でこいつには敵わないからだ。おまけに口でも勝てないのが悔しい。
「で、どう思う?」
 急に真剣な顔で聞いてくる友人に、彼も表情を切り替える。
「ほら、要るだろ?」
「さすがコート」
 取り出した数枚の書類を目にして友人は薄く笑う。
「へぇ。セプティムムなんだ、彼」
「兄弟だから同じだろう?」
「まあ、それもそうだね。で……どう思う?」
 再度問う友人。答えなど決まっている。
「悪くはないと思う」
「おや、随分高評価ですね」
 意外そうに見てくるが、絶対に想定内だろう。
「お墨付きももらえたことだし、本気だしますかねぇ」
「……彼女はどうするんだ?」
「喜ぶんじゃないですか?」
 ちらりと……同居人の部屋のドアを見るが、友人は笑って返す。
「こちらは、こういう道もあるということを示すだけ。決めるのは本人でしょう?」
 その口ぶりは、とても信用できない。
 今回の自分に対する所業から考えても。
「協力はしないぞ」
「フォローはしてくれるくせに」
 忍び笑いをする友人に、だから勝てないんだと思いつつもコートはあいまいにごまかす。
 しないと宣言しても……ウソだと見抜かれる。
 現に、手助けをどうやったらいいか、なんてもう考え始めているのだから。