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護衛の依頼

「いやあ、妙なじーさんだった」
 カルバート共和国のA級遊撃士、ジン・ヴァセック氏は後に語る。

「で、そのリベール王国とやらにはまだ着かんのかね?」
「あそこに見えるヴォルフ砦を抜ければ、リベール王国だ」
「わしらのとこにも関所はあったが、他国との境界っつぅものは厄介じゃのぅ」
 ふぅと大仰なため息をつくのは、白髪の老人。
 齢は八十ほどだろうか。顔に刻まれたしわもたっぷりとしたひげも、顔の造作が少し違えば厳つい頑固な老人に見えるだろう。
 ジンの少し後ろについてくる好々爺――今回の依頼人は、意外に軽快な足取りで歩いている。
「ここらじゃ一番美しいとされる城があるのじゃろう?
 写真などはあるのかね? 孫が見たら喜ぶじゃろうなぁ」
 ほっこりと笑うその顔に、ついついジンもつられて笑う。
「ああ、確かに綺麗な城だが……
 じいさん、依頼はリベールまでの護衛だったはずだが?」
「おおそうじゃよ?
 リベールに着いたら、あちらの遊撃士に護衛を頼む予定じゃからの」
 ほっほっと機嫌よく笑いながら、老人は続ける。
「その国に詳しいものに案内させるのが一番じゃて。
 土産を買うにも、無論な」
「土産ねぇ」
 ついついそう言ってしまうのは、老人の背負っている荷物がすでにそこそこの大きさになってきているからだった。
 一度持とうとしたところ、自分で持つといって聞かなかったため無理強いはしていないが、結構な重さにはなっているだろう。
「まだこれ以上買うのか?」
「なぁに、長いこと会うてなかったんじゃ。土産くらいは奮発せんとな」
 からからと笑い、老人はふと思いついたようにジンに問いかけた。
「ところでジンさんや。
 リベールに入るのはいいとして、遊撃士協会のある町までは遠いのかね?」
「いや。少し先にツァイスって名前の街がある。
 そこで依頼を出せばいいだろう」
「なるほどのぅ。そこにいけばわしと一緒に国中を回って土産を探してくれる若者がいるというわけじゃな」
 便利な世の中よのぅと笑う老人に対し、ジンは一瞬だけ足を止めて、ややぎこちなく振り返る。
「なぁじいさん」
「なんじゃ」
「リベール中を回る気か、あんた?」
「当然じゃ。大国なら流石に考えるが、このくらいの広さの国ならどうってことはない」
 ほっほっと愉快そうに笑う爺様は本気で、ちょっとやそっとじゃ言い負かせそうにもない。
「おお、なんならジンさんの推薦も受けるが?
 リベールに良く知った遊撃士はおらんのかね?」
「いや……他の仕事にかかっている可能性もある。
 一度ツァイスで依頼を出した方がいいだろう」
「そういうものかのぅ」
 何とか納得してくれた老人に、ジンはそっと胸をなでおろした。

『新しい依頼が入りました』

【護衛の依頼】
リベール王国を一周しつつ、
孫娘への土産を選んでくれる方を探しています。
《ツァンラートホテル》に宿泊している
サダルまでお問い合わせ願います。
依頼者:サダル
報酬:10000ミラ