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どこかとおくで…

セイナルカガミ

 こんこんと、だんだんセキが多くなる。
 だからなんとなく。本当になんとなくだけど分かったんだ。
 ああ。僕ももうすぐなんだって。

 今日もずいぶん寝坊したのねって環さんが笑う。
 環さんが早すぎるんですよーって僕は笑う。
 暑い夏が過ぎて、だんだんと風が冷たくなって、秋なんだなあって言ったら怒られた。
 秋は忙しいんだから早く風邪を治しなさい!
 があっと怒るだけ怒って、環さんは仕事に行く。
 農作業は体力勝負。
 ふらふらの僕が行ったって足手まといになるだけ。
 仕方なく縁側で大人しく景色を眺める。
 さわさわと風に吹かれる金色。
 今年は豊作かな。台風が来る前に刈りいれられれば良いけど。
 雨漏りも直さなきゃいけないし、今年は焼き物にもチャレンジしようって言ってたのに……

 こんこん。
 セキは止まらない。

 ちょっと寝て起きたらもう夜で、皆がせっせと準備してた。
 たくさんのサトイモ。それからススキ。
 なにをするのって聞いたら、楽しそうにお月見だよって教えてくれた。
 あれ今日って十五夜なの?って僕の疑問に、わかんないけど満月だし秋だしってなんともいい加減なお答え。
 もういい加減だなぁ。
 でも確かに月は奇麗で、十五夜っていっかって気になった。
 まんまるキレイなお月様。
 僕もあんな風になれたら良いな。

 こんこんこん。

 あのね環さん。
 小さな声で言うと、なにってぶっきらぼうに言われた。
 ああもうむくれないで下さいよー。僕もう喋るだけでも辛いんですから。
 あ、聞いてくれます?
 あのですね。僕は鏡が良いです。
 氷火理さんは剣でしたけど、僕は鏡になりたいです。
 満月みたいにぴかぴかの。
 やだなぁ。みんないつかは通る道ですよー。
 それに僕たちは還れないんですから仕方ないじゃないですか。ってうわ暴力反対!
 え、何で月かって?
 だってみんな見るでしょ?
 うん。あれはおんなじだから。
 帰りたい帰りたいって。
 あはは。なんか僕らかぐや姫みたいですね。
 ごめんなさいちゃんと話します。
 ですから、大丈夫だよーって言ってあげられるかなぁって。
 ちょっとそれは酷いんじゃないんですかー。せっかく僕考えたのに。

 こんこんこんこん。

 まるいまあるいお月様。
 死んだ人の魂はそこに運ばれるって話もあるけど。
 まるいまあるい鏡。
 そこが僕の眠る場所。

 おしまい

取り留めないシリーズですが、「どこかとおくで」暮らしていった一人・清の話。
最初の部分が抜けてるだけに、状況説明がなんともなぁ。