喧嘩っぷる
正直、不思議に思ったものだ。
あの子が彼に興味を持つ――ライバル心を持つことは予測できたけれど、逆は予想できなかった。
どうしたわけか、曳士の方も興味を持っているらしい。
とはいえ、元々誰かに執着らしいものを見せたことのない――誰に対しても当たり障りのない態度しかとらない――彼にしては、という程度だが。
だから、他者に比べて、ほんの少し親しみがある程度。
それでも茅からしてみれば珍しいことに思えた。
彼の父親も厄介な人間ではあったが……父親とは違う意味でやっかいな相手に気に入られたというか、自分から突っ込んで行ったというか。
ともあれ、現状をこれ以上放置していても仕方ないだろう。
「いい加減にしなさい、あなた達」
「響子おばさん」
「茅博士」
ドアを開けてきつく言えば、二人そろってこちらを見る。
一美の方は露骨に不満げな顔をしているが、曳士はいつもどおりの涼しげな表情。
今度は何が原因で言い合いを始めたのか分からないが、自分の目の前でやるのはやめて欲しいものだ。
「なんだ、お前らまたやってるのか」
「浅倉先生!」
響子の後ろから顔を出した相手を認識した途端に、一美は笑みを浮かべて駆け寄っていく。この場にいると厄介なことになると思ったのか、そのまま足を半回転して去っていく浅倉。賢明な判断だろう。
もちろん、愚痴を聞いてもらいたいだろう一美は追いかけていく。
残されたのは茅と曳士のみ。
ちらと様子を伺えば、二人が去っていた廊下へと視線をやったままの曳士。何か思うところでもあるのだろうか。
「あんまりからかわないでやって頂戴」
「からかっているつもりはありませんよ」
答える姿はやはり何かを含んでいる。……純粋に楽しんでいるのだろうか。
案の定、これから何年にもわたって、二人がいさかいを起こしている様子は多々見られることになる。
「7つのカップル」お題提供元:[fisika]http://mblg.tv/fisika/