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終の朝 夕べの兆し

それぞれの形

「フェンネル先輩って被虐趣味なの?」
 また、とんでもない言葉を落とした。
「ディアマンティーナ」
「なんでまた、そんなことを思ったんだ?」
 口調と表情はそれなりにやさしく。けれど声音も瞳もそれを裏切っている。
「だって、いつも率先して向かっていくから傷だらけでしょう?
 少しは避けるなり守るなりすればいいのに」
 実習の後、いつもボロボロですよねと付け加えられて、フェンネルは苦い顔をする。
 こらえきれなかったとわかる笑い声に視線をやれば、おもいきり顔をそらしたケインと呆れ果てた様子のルキウスの姿。
「攻撃を優先してるだけだ」
 そういう意味でか、と呆れたように言って再び提出用の書類に取り掛かる。
「ケイン先輩は実習の後は変わりませんよね」
「実習だと分かっていれば対策とれるからね」
 笑って言う彼にディアマンティーナは頷き返し、残る一人へと視線をやる。
「兄さんは暴れすぎだと思うの」
「お前が言うか」
 言い合う兄妹に残された二人はどっちもどっちだと胸のうちだけで思う。
 口に出したら、互いに向いている攻撃がこちらへ来ることがわかっているから。
「わたしは暴れていないわ。守っているだけだもの」
「攻撃を反射させていれば周囲がどうなるかくらい分かるだろう」
「攻撃する方が悪いと思いません?」
「する暇を与える方が悪い」
 口の減らない物言いも兄妹らしく似通っている。
「で、今回は何を思い付いたんだ?」
 空気を変えようと口を開いたフェンネルに、ディアマンティーナは振り返り、答える。
「やっぱりみんな違うのねって」
 頬に手を当て、うんうん頷く。何のことか問うたところで、いつものごとくそれ以上の返事はないだろう。
 振り回されるのはいつものことと、その日も対して思うことはなく、皆、自分のやるべきものへと意識を向けた。

「フェンネル先輩は派手に暴れて、ケイン先輩は慎重に、兄さんは先手必勝一撃必殺」
 指折り数え、ディアマンティーナは笑う。
「タイプが違うから守るの大変だわ」
 とても楽しそうに。

形を知って、守る術を探す。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/