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終の朝 夕べの兆し

攻撃は最大の防御なり

 ああ、うるさい。
 ふくれた様子で大げさにため息を吐けば、こっちがため息つきたいくらいだと小言がふってくる。
 自分が叱られているということは分かっている。
 だが、叱られる理由がわからない。
 先輩のお小言を右から左へ聞き流しつつ、ディアマンティーナは視線を落とす。
 少ししおらしい様子を見せれば説教時間が減らないか、なんて期待をして。
 ディアマンティーナは、自身が周囲から一歩引いて見られていることを知っている。
 彼女の生まれや能力から、よからぬことを企んで近づく輩もいないことはないが、大抵がディアマンティーナの性格を知ると一目散に逃げかえる。
 とはいえ、たまにめげずに近づく者もいる。
「ディアマンティーナ」
 聞き流していたのを悟ったのか、かなり不機嫌な様子のケイン。
 いつもは一番口やかましいフェンネルは沈黙を守り、いつものように不機嫌全開の兄は視線だけで物言うてくる。
「どうして、相手が手を出してくるまで黙ってたんだ」
「先輩は、あの程度の人にわたしの防御が破られると思われてるんです?」
「信用してても心配なものは心配なんだよ」
 正面から言われて、ディアマンティーナは不服そうに眉を寄せた。
 フェンネルやルキウスならば決して口に出さない言葉。
 破られると思っていないと言われたならば、だから大丈夫だと返せる。
 破られると思っていると言われたならば、信じられないかと返せる。
 両方を封じられてしまっては口を紡ぐしかない。
「君の防御の力は身をもって知っている。でも、信用していても不安はあるんだ。
 相手がどんな搦め手を使ってくるか分からないからね」
 滔々と揮われる言葉に彼女は耳をふさぎたくなるのを何とかこらえる。
 それをしてしまっては、お説教時間が増えるだけだと経験で知っているので。

 彼女にしては珍しくお説教を受けている様子を見て、フェンネルはちらと横を伺う。
 相変わらず不機嫌を前面に押し出した様子のルキウスは、いつもに増して怒っている。
「で、どうするよ」
「決まっているだろう」
 問いかけに、彼はこちらを見ることなく応える。
 視線を交わすことなく交わされる言葉。
 フェンネルは相手の情報を掴んでいるが、それはどうやらルキウスも同じだったらしい。
 相変わらず続いているケインの説教を背にして部屋を出る。
「ついてくる気か?」
「たまたま行先が同じだけだろ」
「たまたま、か」
 ルキウスが口だけで笑う。
 正面から見れば、さぞ凶悪な顔をしていることだろう。
 そう思っているフェンネルも人のことを言えない顔なのだろうが。
 今回は対処が遅れてしまったが、その分おもいきり暴れてしまおう。
 次にこんなことをしでかす者が当分は出ないように。

おてんば娘と保護者たち。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/