残念な人
学校から帰ってきて着替えればもう、彼らは子供ではなく社会人になる。
だから本来は相応の責任を負うはずなのだが、やはりまだ未成年ということでいろんなことから守られている。
例えば、すぐに思い浮かぶのは汚いものや薄暗いこと。
いずれ知らねばならぬことだとわかっていても、気遣いを無駄にすまいと知らないことを続ける子や、あえて知ろうとする子もいるが、シオンの場合は知っておかなければならない立場にある。
「で、最近のアポロニウスの挙動不審はなんなんですか?」
訴える先は事務方の相棒にあたる槐。
「そりゃあ、アルブム唯一の成人ですから、色々と今までも一人別任務とかありましたけど、それでも私の部下です」
監督責任がありますと言えば、困ったように笑う槐。
「いや、そうなんだけどね」
「だけど、じゃあありません」
きっぱりと言い切る。
「そもそも、他と比べてうちは人数少ないんです。よりによってまともな戦力失うのは辛いんです」
「それはよくわかってる」
「じゃあ、どうして教えてくれないんですか?」
「……君の年齢が」
しぶしぶといった様子で言われた言葉に眉を寄せる。
「それを言い出すなら、所属させたことが間違いになりませんか?」
「いや、そっちよりもR18方面で」
「はぁ?」
思わず疑問の声が出た。それはつまり。
「風俗系のおとり捜査でもやったんです?」
「あれ驚かないの?」
「警察24時とかで普通にやってるじゃないですか」
気にならないわけじゃないが、そういう仕事があることは知っている。
けれど。
「どうしてあんなに挙動不審なんです? 女性全般に」
「女性不信になっちゃったみたいでねー。あれでも多少ましになった方だよ。
……いや本当、賢者様こわかった」
保護者が乗り出すほどだったわけかと半眼になるシオン。
あの年になって保護者が出てくるのもどうかと思うが、それだけ被害がひどかったともいえる。
というか、それ以前に。
「ストーカー被害者に何をやらせてるんですか」
「ああうん、言われてみればそうなんだけどね」
露骨に目をそらす槐。本気で忘れていたのかは怪しいが、いうことは言わねばなるまい。
「命があっただけ、ですからね。それ以外のかなり物を失ってるんですから、不信に陥ったっておかしくないです」
「……言葉もないです」
「年下は大丈夫なのが救いですけどね。楸たちには結構普通に接してるし」
「ああ、そうなんだ」
ふぅんと槐が感慨深げに言う。
「コスモス嬢にリハビリお願いしてるから、少しは効くと思うよ」
「大丈夫なのが姉限定じゃないんですか?」
「まあそれでもいいんじゃない?」
「仕事上よくないです!」
声を荒げてみても相手に効いた様子はない。
のらりくらりとかわされて、結局収穫はないままに部屋を出る。
まったくとシオンは胸のうちで毒づく。
仕事はできる方なのに、この人はどうしてこうもややこしい事態を招くのが好きなんだか。
それから、今回は完全に被害者だけども、やっぱりもうちょっとしっかりしてほしい部下にも物申したい。
「やっぱり出世しなきゃ駄目かなー」
年下に厄介ごとを押しつけてくれる連中を逆に使ってやるには。
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駄目な年上としっかりものの未成年。
周りに頼れないと自立するしかないよねっていうシオン君。