ふわふわっ
「……甘い」
嫌そうに呟いたアルトゥールに楸は苦笑する。
久しぶりのデートは楽しい。お祭りだから浮かれている人もたくさんで、人ごみもすごいのは難点だけど。
浴衣を着られれば良かったのだけどと思わなくもない。けれど、手持ちのものは実家に置いたままだし、借りるにしても結局は着付けが問題になり――つまるところ、先立つものが心もとない。
ま、制服でないだけましかと思い直して、出し物担当になった従弟たちに感謝を述べる。
毎年のこととはいえ、捜査員を広報に引っ張り出すのは控えてほしいと思うのだけれど、広報に力を入れないと入団者もいないと言われてしまえばどうしようもない。
アルブムにお鉢が回ってきやすいのは、年が若く子供が親しみやすいだろうからとのことらしいが。
本来の凶悪犯追いかける方につかせるにはまだ若すぎるから、ひとまず雑用やらせとこうって面もあるよねー。
自分で買ったカステラを口に突っ込みつつ、気持ちを切り替える。
だめだめ。今は楽しいお祭り中なんだから! 楽しまなきゃ損損!
隣を伺えば、神妙な顔をしたままのアルトゥール。
「ね? 甘いって言ったでしょ?」
「言われたけど……ここまでとは」
「砂糖だもん」
ふわふわとした綿菓子は、小さなころ大好きだった。
いつも途中で食べ飽きては姉兄に叱られていたけれど。
「雲みたいで食べてみたかったんだ」
言われた内容に、笑う。
「だよねぇ。雲みたいだもん」
そう、雲のようだから食べたかった。
毎度のように最後の方は叱られながら食べることになっても、繰り返し買っていた。
「ちょっともらっていい?」
「いっぱいとっていいよ」
了解が取れたので、お言葉に甘えて多めに千切る。
予想よりもたっぷりとれてしまった綿あめを、一口サイズにつまんで口に放り込む。
しゅわしゅわと溶けていく感触を楽しんで、やっぱり甘いねと同意をした。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
お菓子も気持ちもふわふわとあまい。