酔っているだけ
『師匠はどうして人といるんですか?』
『……なんですかいきなり』
ぶしつけな問いに、師匠は困った顔で質問の真意を聞き返してきた。
『だって、師匠は凄く長生きなんでしょう?
ぼくだってこんなに大きくなったんですもん』
『まあ、確かに大きくなるのは早いですよね』
すぐに背を抜かれてしまうと苦笑して、師匠はまた洗濯を始める。
『師匠!』
誤魔化されてなるものかと大声で呼ぶと、また困った顔で笑われた。
『どうしても理由がいるなら』
『なら?』
そして師匠の答えは――
何と聞いたのだろう?
冷たい石に封じられて、時間の流れを否応無く変えられてから、長く時が流れすぎた。
私を知る者は皆いなくなり、私が知る者も皆、いなくなっていく。
人と石と。
どちらが長く在り続けられるかなど分かりきっている。
みんな先に老いていく。みんな先に死んでいく。みんな私を置いていく。
師匠はずっとこんな思いをしていたんだ。
別れは辛い、さみしい。
どうやって越えていったのだろう?
だが、一時絶望に打ちひしがれても、慣れとは怖いものだ。
だんだんと『そういうもの』だと思えてくる。
持ち主の代替わりはその生の終焉と同じこともままあった。
主を看取り、次の持ち主の元へ。譲られ続けて私は生きる。
誰がこの運命を課したというのだろう!
譲られ続けて今の持ち主の元へたどり着き、会話が出来る事もあって色々言ったし言われた。だが、効いたのはあの言葉。
「罰ね。
罪を犯したから罰を受ける……でも。
罰を受けてるから大丈夫……そんなこと思ってない?
それは本当に『償い』なの?」
聞くものによっては憤慨するような内容だとは思う。
それが私には特に効いた。
自らの不幸に酔っていただけだと……そう、気づかされたのだから。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
ナビガトリアでリクエストを頂きましたが、酒に酔うでも雰囲気に酔うでもなく、不幸に酔ってたアポロニウス。
ひねくれはしたものの壊れなかったあたり精神は強いですが、そんな彼でも最近の扱いにはこっそり涙する事も。