もう戻れない
そっと一度だけ振り返った。
後半刻もすれば、太陽が山の端にあわられるだろう。
その前に、そっと抜け出す事に異論は無いけれど。
強い風にさらわれる髪をフードの上から抑えて、出てきた場所を見上げる。
夜明け前。
星の光は弱くなり、それでもすぐにやってくる太陽を迎えるかのように、空は少しずつ明るくなっていく時間。
西の空には濃い藍色が。東の空は緑色に。
その中間辺りの空は、かつて良く見慣れた青い色。
「アッティカ?」
止まっていた足に気づいたのか、それとも視線に気づいたか。
心配そうな声がかけられる。
「やっぱり」
「なんでもないって」
言葉を遮って言う。
どうせ、巻き込むとかって思ってるんだろ?
でもなディアナ。一人で残される方がいやだって。
あの戦が終わって、ディアナが王位について。
……多少窮屈ではあったけど。まあそれなりに平和だった。
ディーファの祝福で、あたしたちは長生きできるようになった。
それは……ある意味でまた不幸なのかもしれない。
今はいい。
皆あの戦の事を知ってるし、何よりあたし達の事を知ってくれてる人がいる。
こんな事考えるのは癪だけど……これから先、時間に取り残されていくあたし達が戦の火種になる可能性がある。
だから、一段落ついた今。こうやって抜け出す算段をしているんだけど。
「何とろとろしてんだ」
不機嫌な声は前方から。
「うっせーな、大体なんでてめーが仕切るんだっ」
「アッティカ静かにっ」
ちっ 腹は立つけど確かに今見つかったらまずい。
まだ城からあまり離れてねーし。
睨み付けるだけはしておいて、やや大股に歩く。
街から出るそのとき、もう一度だけ城を振り返った。
この町に来る事はあっても、城に戻る事はきっと無いから。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
アッティカ視点で、お城からの脱出シーンはこんなかな、と。
きっと多分、長い寿命もらっちゃったから、いつまでもここには居れないんだろうなとか思い出したディアナをアッティカが引っ張り出すか、ラシェが訪ねてきたか何かで決意固めて旅に出たのかなぁと。
セキは誘いに来ないっぽいです。
それこそ山奥でのんびり、悠悠自適に盆栽やってる事でしょう。