大切すぎて
その、あまりの量にめまいがした。
「能登ってどこかの姫なのか?」
「ここにいる時点で少々の出ではないが……それにしてもこれはおかしいぞ」
耳打ちした俺に、憂鬱そうに答える眞珠。
目の前にあるのは大量の山。
なんか色々な山。
「ちょっとちょっと勝手に捨てないでよッ」
そんな勝手なことをいうのは部屋の主の能登。
もっとも宮仕えの……しかもあまり位が高くないものが、一人で一部屋もらえるわけがない。同室の侍女たちから『ちょっと掃除を手伝ってやってくれ』と頼まれたから……
とはいえ、男の俺を入れていいのかとは思うけど。
ため息つきつつ答える。
「簡単に捨てるか。使えるものは捨てない」
着れなくなった服は着れる相手に譲ればいいし、服として用が足せなくなったなら、別のものに作り直せばいい。資源は有限なんだ。
だけど……
同じことを思ったのか、眞珠も疲れたように言う。
「しかしこれはひどすぎじゃろう」
「うっ」
手近な箱を一つ持ち上げて聞く。
「大体この箱、何に使うんだ?」
「と、とっておけば何か入れるかもしれないじゃないっ」
今度は能登が色合いの綺麗な……だけどどう見ても子ども用の衣を手にして問いかける。
「で? この衣は?」
「お気に入りだったんだもの! 自分で持っていたいのよッ」
「この花腐ってるぞ」
「こっちの菓子もじゃぞ」
「摘んだとき綺麗だったんだもの!
お菓子は全部食べちゃうのもったいないほど美味しかったの!」
「せめて押し花にしておけよ……」
「腐らせれば意味ないだろうに」
二人で同時に肩を落として、なんとなく視線が合う。
やるか?
やるしかなかろう。
意思疎通完了。
「さー、掃除掃除」
「とにかく全部一度庭に下ろすとしよう」
「あーん私のーッ」
掃除が終わったとき、部屋の中はほぼすっからかんになり。
能登がしまいこんでた大量のものは、譲れるものは譲ったけれど、そのほとんどがごみになった。使わずに溜め込んでおいてもいいことばかりじゃないと確認することになった出来事だった。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
大切だからとっておいた。
でも使わなければ意味がないもの、駄目になってしまうものは多いと思います。