鮮やかな色
鮮烈な赤。
火と血と……国が落ちた日のこと。
魔族によって滅ぼされた祖国。
ただ禁忌の力によってなぶり殺しにされた民と国。
まぶたの裏に残る色がある。
ゆるく波打つ青い色。
ソルトブルグが追っているという『青い髪の魔女』。
人の姿を真似て、大人しそうな顔をした――魔族。
相手が魔族ならば容赦などしない。
アスラン軍に囚われた『魔女』を殺すため、わざわざ姿をあらわしたというのに。
積極的に戦おうとせず、何とか逃れようと同情を誘う物言いに腹が立った。
魔族喰いの一撃を食らって、ようやく本性を出したかと思えば。
月に照らし出された廃墟と化したバル=ジーの中で、第二回戦をと言う自分に、生きていたのかと問いかける。
当然だ。あの程度の攻撃で死んでたまるか。
嘲りかと疑ったその言葉の後に、予想外のものが続いた。
――私は……また人を殺してしまったのかと思ったわ――
こちらを向いたその顔はなんともいえない弱々しさで。
――よかった――
本当に安心したように、涙を浮かべていた。
血を好む魔族のくせに。
ろくに抵抗できない人間を大勢殺す。
そんな存在だというのに。
直前まで戦っていた相手に、命を狙っていた相手に……何故そんなことを言う?
「ちっ」
悪態は、闇に溶けて消えていく。
夜とはいってもこの地は十分暖かい。
あてがわれた部屋でベットに転がって随分経つというのに、一向に眠気は訪れない。
眠る事を諦めて、剣を手に取り外へと向かう。
夜風にしばらく当たれば気晴らしになるだろうと判断して。
空には煌々と輝く星々。時折吹く風が心地よい。
敷地内をぶらぶらしつつ、結局は余計な事を考える羽目になる。
何でこんなところにいるんだか。
考えるまでもない。
南下していく前線と共に移動して来たのだ。
皇国の次の標的はこの国。
戦地に赴くのは可笑しな事じゃない。
可笑しいのは……大僧殿にいることか。
約一年ぶりに『再会』したあいつのせいだ。
怪我してたあいつをきまぐれに大僧殿まで運んでやれば、そのままどういうわけかここに居座る羽目になった。
まったくどうかしてる。
俺が魔族を……あいつを恨むのは当然の事だ。
だが――
大僧殿へと向かう俺達を必死になって追っていた数多くの魔族。
殺りがいのありそうな奴らが、何故かあいつを追っていた。
『随分ご執心のようだが……何をやったんだ?』
そう問うたのは自分自身。
答えがもたらされたのは少し後のこと。
刺客が放たれていたのだと。
他ならぬ、あいつの『父親』によって。
頭を振って思考を追いやる。
余計な事は考えなくていい。
魔族を倒す事だけを考えていればいい。
少なくとも、ここにいればその機会は多く得るだろう。
上手くいけば皇国に攻め込む事も可能だ。
そしてその時が来たならば……一族の敵を、あの男を討つ。
決意を新たにし、そろそろ戻ろうかと思案した時。
声が聞こえた。
間違えるはずもない悲鳴。
とても小さなものだったけれど。
「ちっ」
まったく……本当にどうかしてる。
踵を返し、悲鳴の元へと足を進めると、風をはらむ白いカーテンの向こうに、あの青色が見えた。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
すいません。滅茶苦茶楽しかったです。名前まったく出てませんけど語り部はラシェです。
本当この作品大好きなんです! 誰かこの話題についてきてくださいませぬか~? (切望)