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ナビガトリア

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【第一話 花の都の物語】 4.花の都へ

 ストラーデからフィオーラに向かうなら、ヴィア・ラッテアが良い。
 レベッカの助言に従い、コスモスたちはストラーデの中心部にあるチェントロ駅に来ていた。
「一等車と二等車があるようですけど、どちらにします公女?」
「二等車で十分よ。
 切り詰めるとこ切り詰めないと、魔法ってただでさえ金食い虫なんだから」
『猫の皮はもういいのか?』
「うっさいアポロニウス」
 茶々を入れる彼の言葉を切って棄てて、コスモスは券売機に向かう。
 入力は慣れ親しんだパラミシア語。
 こういうとき、世界共通で使われている割合の多い言語圏だと得をする。
 魔導士同士なら母国語が違っても、古代語でコミュニケーションが取れなくもないが、アルテ語はさっぱり分からない。
 乗車券と特急券を買って、早速ホームへと向かう。
 黄色いポストみたいな機械に券を通して日付を刻印し、あとは列車が来るのをひたすら待つ。
「それにしても……さすがに公女ですねぇ」
「なによ突然。おまけにその言い方は」
 ねめつけるように部下を見やれば、薄はさも楽しそうに口の端をゆがめる。
「レベッカ様、かなり悔しがってましたよ。公女を止められなかったこと」
「一応止めただけじゃないの? 厄介事背負い込みたくないってだけで」
 コスモスの疑問に、いえいえと薄は首を振る。
「賭けてらしたみたいですよ。エドモンド様と」
「あの夫婦は……ッ」
 エドモンドはコスモスの祖父の従兄で、この国に来る直前まで世話になっていた相手だ。二人が夫婦であることは無論コスモスも知っていた。
 しかし、エドモンドは協会本部の副会長で、レベッカは支部の導師(マギスタ)。機密に関わる頻度も重要さも比べ物にならない。
 アポロニウスの件はどちらかというと重要機密にあたるから、レベッカに話は通っていないと判断したのだが。
「じゃあ何? 大叔母さんは全部知ったってこと?」
「もちろん。公女の反応を楽しまれてましたよ」
「……それであんた笑ってたわけね」
『悪趣味だな』
「なんとでも。というよりアポロニウス、今更気づいたのか?」
 薄に鼻で笑われてアポロニウスは沈黙する。見た目同様、いやそれ以上に彼は腹黒い。
「なんでこんなに黒いんだか」
『本音と建前を看破しすぎて、ひねくれたんじゃないか?』
「もともとひねてたせいもあると思わない?」
『ああ、それもあるかもな』
 唯人には聞こえないアポロニウスの声を薄は聞く。
 それはコスモスのように人間離れした魔力を持っているわけではなく、彼自身の能力によるもの。
「何をおっしゃいますか公女。そのくらいでないと公女の護衛なんて勤まりませんから」
「あたしが腹黒いって言いたいわけ?」
「滅相もない。私はただ事実を述べただけですよ?」
 ぎろりと主ににらまれても、口の減らない従者はいけしゃあしゃあと言ってのける。
 人目があるため怒鳴るわけにはいかず、口ごもるコスモスに彼は恭しく手を差し出した。
「列車が来ましたね。さ、参りましょう公女」
 その手をとらず、代わりに荷物を押し付けてコスモスはさっさと乗車する。
 やるせない。この怒りをどこにどうぶつければいいのか?
『……清濁併せ呑むことが出来るのは良いことだと思うぞ』
「一応のフォローありがと」
 腹黒いと言われたことを否定されなかったことに腹を立てつつも、ほんの少し彼女は笑った。アポロニウスからはその笑みが見えないことは知っていたけれど。

 旅の醍醐味といえば何だろうか?
 コスモスは、その土地土地の美味しいものを食べたり、そこに住む人々とのふれあいだと思っている。だから見知らぬ人との会話は拒むことなく、むしろ楽しんですることが多かった。
「そうか、お嬢さんはパラミシアから来なさったか」
「ええ。この国の美術館は見ごたえがありそうだし、風景も綺麗だし」
「ほっほっほっ。そりゃ褒めすぎじゃよ」
 薄が席を立った間を狙って話しかけてきた恰幅のよろしいお爺さんは、それはそれは楽しそうに笑う。
「この爺は趣味で占いをしておってな。
 何せ、若いお嬢さんとおしゃべりするには便利な趣味だ」
「あはは」
 アルテの男性は、女性を口説くことに命を懸けているようなもの。
 揶揄に近い噂だけど、噂も結構馬鹿に出来ないらしい。
「お嬢さんは良い星を持っておるね。人を助ける優しい星じゃ」
「ありがとう。よく言われるわ。あたし、星の子だもの」
「なんと、べっぴんさんじゃと思っておったが、星の子か」
 こういった話にあわせるのは大事。
 それに、偉大なるご先祖様スノーベルの娘は(ステラ)という。
 一人の娘の名前だった「スノーベル」を姓として名乗り始めたのが彼女(ステラ)だというのだから、星の子だと言っても良いだろう。
 事実、魔導士内では星の子=スノーベル家の図式はすでに出来上がっている。
「星の子に会えるとは縁起がいい。何ぞご利益があるかのう?」
「それはどうかも? 悪いことが起きても、あたしのせいにしないで下さいね?」
「ほっほっほっ。べっぴんさんと話が出来て悪いことがあるかね?」
 ノリの良いお爺さんは薄のせいで下がっていたテンションを大分引き上げてくれた。
 とはいえ、元凶が戻ってきたことで名残惜しそうに自分の席に戻っていかれたのだけれど。
「どこ行ってたの?」
 言葉にしない問いかけに、薄は笑顔を浮かべた。
「ちょっと電話をしにデッキまで」
「……どこに?」
「ホテルの予約ですよ?」
 飄々と答える薄の笑みが怪しい。これは何かを企んでいるときの顔だ。
「何も企んでいませんよ。ちょっとしたサプライズは仕組みましたけど」
「あんたね……」
 タイムマシンがあるなら戻りたい。こいつを護衛にする前まで戻りたい。
 文句は苦虫と共にかみ締めてぐっとおしこんで、コスモスはひたすら窓の外の景色に意識を向けた。
 フィオーラまで残り約一時間。はてさて、かの地で何が待っているのやら。