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描写する100のお題

001:雪 (127文字)

しんと静まり返って、耳が痛いくらい。
気温がぎゅっと下がったのは気のせいではないだろう。だってこれは先触れだから。
白く染まる息を追って見上げれば、鈍色の空から楽しげに舞い、落ち、上がり、ダンスを踊るかのように。
控えめな――けれども絶対的な主役がやってきた。

002:さくらの花 (133文字)

この季節特有の、輪郭がぼやけたような景色の一因はコレにもあるだろう。
近寄ってみれば、一輪一輪は清楚ともいえるのに、はっきりと自己主張する姿。
はらはらと散るさまは潔くも未練たっぷりにも見える。
地に落ちる前に捕まえようとする手をするりするりと抜けて、花筏となり流れ行く。

003:白 (131文字)

光の場合は混ざることで作れる色は、光以外では混ぜるとけっして作れない。
昔の日本では死者の色でもあったという。
それ一色に染まったものは『日常』とかけ離れているからかもしれない。
雪や雲、いろんなたとえを出されるけれど……結局連想するのはまぶしいほどの光、なのだろう。

004:妹 (118文字)

小さい頃はこっちが鬱陶しいくらいくっついてきていたのに、いつの間にかこちらが邪険にされるようになって、背も追い抜かれて。
無条件で可愛いと思えた日々は遠く過ぎ去っているのに、頼られるとつい助けてしまう。
きっと要領のよさは敵わないのだろう。

005:双子 (130文字)

一番近くにいて、一番に近しいもの同士。
鏡映しのようと評されるものもいれば、似ていないと一笑されるものもいる。
瓜二つの場合は、形作る細胞すら同じだという、なのに、違う、この心。
『ひとつ』とまとめられるけれど、見るものが見れば判別できるし、どれだけ近くとも別の存在なのだ。

006:証 (78文字)

態度で言葉で物品で、さまざまな形で求められるもの。
信じていると受け取られ、信じられぬと跳ねつけられる。
形なきものを形で示す、その難しさを知らぬのであろうか。

007:十字架 (79文字)

祈りの道具であり、背負うものともされる。
関わりのないものからすれば、ただのシンボル。
夕闇の中林立するそれらを見下ろし続けて幾許か。影は軽く目礼しそこを去った。

008:闇 (60文字)

色なら黒、月のない夜ともされるもの。
怖れるが故に光を求めた人々は、より深く隠し、故により深く濃いものへと変えてしまった。

009:黒い炎 (67文字)

自分だけが知っている、心の中で蠢くもの。
憎悪という風を受け、より大きくなっていく。
仄かに灯り、導にもなるろうそくとは似ても似つかない。

010:舞い (93文字)

古の装束に身を包み、扇を布を鈴を手にした乙女達が花々を行き交う蝶のように、華やかに場を占める。またある者は面を隠し威厳を持ってそこに立つ。
時に荒々しく時に厳かに、神への奉納は続けられる。

「描写する100のお題」お題提供元:[追憶の苑] http://farfalle.x0.to/