一人旅とひとり立ち
別れを告げたのはつい先日。
たしかに、今まで厚意に甘えてきていたのだけど。
どうしよう。とうとうブラウと二人になっちゃった。
気づかれないようにため息ついて、セティは思う。
フォルとルチルは先日別れた。
なんだかんだでいいコンビだし、今までも二人で旅していたから問題ないだろうけれど……こちらは問題ある。
今までは他人の目があったからケンカしても落としどころを探していたし、ひどくなれば仲裁が入った。
仲が決定的に悪いって訳ではないけれど……しょっちゅうぶつかることは確か。
これで旅が続けていられるのかなぁ?
「お前いつまで旅続けるんだ?」
相手も似たようなことを思ったのか、問われた言葉はある程度予想していたもの。
「続けられるだけだよ。正直、魔王を倒すのって無理そうだし」
「いないもんは倒せねえしな」
「まぁね」
こくんと頷き、さらに答える。
「それでも、せめて魔物が増えた理由は知りたいし。対策までとれたらいいけど」
「そうか」
何年も付き合ってるけど、ブラウの反応は良く分からない。
ああもう、あんまり気を使うのは……辛いのは嫌だよ。
「ブラウも無理してついて来なくていいよ」
相手を気遣って言ったように聞こえる言葉は、自分のためのもの。
これ以上、心労を抱えたくないから。けれど……
「なら、そうさせてもらう」
「はい?」
肯定されて戸惑った。
あっけに取られるセティにどうかしたのかというような視線を送り、ブラウは理由を述べる。
「セレスナイトの頼みもあったし、どっかで野垂れ死にされても寝覚めがわりぃからついて来てたが、そろそろいいだろ?」
ああ、そういうこと思ってたんだと思いつつ、口から出てきたのは可愛げのない言葉。
「えーと、そういやブラウって意外と律儀だったよね」
「じーさんからも顔みせろって言われてたしな 」
「そう」
「それで、別れたの?」
「うん」
問いかけてくるクリオの声は久々で……涙が出るほど嬉しい。
食事が出てくる前のテーブルに頬を載せるのは行儀悪いと思うけれど……正直体力が残っていない。
「失敗だったんじゃない?」
「ものすごく悔しいけど、私もそう思う」
本気で悔しそうに答えるセティの後ろではよかったよかったと安堵の声が繰り返されている。
「無事で良かったなあ」
「行き倒れだと思ったもんなあ」
ブラウと別れた後、セティは満身創痍でなんとか六花の町にたどり着いた。
比喩はなく、本気で行き倒れ直前で。
「ううう、知られたらバカにされる」
情けなさそうに言うセティ、でも……
「自分の迂闊さを後悔すると思うけどね」
こっそり呟いたクリオの言葉に気づかなかったのか、突然がばりと起き上がってセティは訴える。
「他のパーティーに入れてもらえないかって何回も聞いたんだよ!? でも」
「みんな断られたのね」
返事は返らず、しゅんとまたテーブルに突っ伏す『勇者』。
みな、厄介ごとに巻き込まれたくはないんだろう。
勇者の仲間というものは……面倒ごとのかなり上位に位置するから。
ところ変わってこちらはアルカ。
新しい法皇様のもと、側近が大鉈ふるって改革の真っ最中。
気苦労絶えない法皇は、久々に訪れた愛息子のおかげでここ最近は元気だったのだが。
「ブラウ。どうしたんじゃ、その顔は」
どうやらその息子の方が元気がない。
「最近、夢見が悪くて」
「睡眠不足か」
確かにクマが出来ているし眠そうだ。
あくびをかみ殺す相手に声をかけてきたのは赤い司祭。
「というか、憑かれてるぞ」
「寝てないんだから」
「そうじゃなく、とりつかれてる」
「はぁ?」
「何」
ニュアンスを聞き取り損ねた相手に言い直せば、本人は不機嫌そうに声を出し、養父が慌てた声を出す。
ああ、霊感ないのかと思いつつ、先程から青年の背後霊が訴える言葉をそのままラティオは口にした。
「約束守れ、セティ守れ」
その一言で意味が分かったのだろう。
言われたブラウは顔を引きつらせ、法皇はため息ついて宙を見上げた。
「ブラウや。迎えにいっておあげ」
「……」
尊敬する養父の言葉。
いい加減もういいじゃないかとブラウ本人は思いたいのだが……親友はまだ許してくれないらしい。
一人で旅をすることに恐怖を覚えたセティは中々旅立ちの踏ん切りがつかず、法皇の言葉どおりブラウが迎えに行くまで町にいた。
かくて、セティ初めてのひとり旅は一月と経たず終わりを告げた。
おしまい
アップを忘れていた6周年記念SS。
プロット段階ではセティとブラウは恋人?な感じだったはずですが、気づけばオカンと息子になってました。