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2番目の、ひと

【Step4 誤解と和解】  6.協力要請

 お昼ごはんを食べてのんびりとしようとしていたら、サキがうちに来ました。
 ……引き続き、フェッリ先生もいます。
「どうしたの?」
 サキだけならいつでも大歓迎なのですが、なぜ先生もいるのでしょうか?
「デートしに学校行こう!」
「え? 証拠集めとかじゃなくて?」
 思わず問い返した僕に、サキは大きな目をさらに丸くさせて先生に問いかけました。
「先生すごい! アーサー分かっちゃってる!」
「そりゃあ分かるでしょう。私がいるのにデートはないでしょう」
「あ、そっかー」
 えっと、そこで納得しないでほしいなと思うのですが。
 先生も言ってるとおり本当にデートなら違うよね? 他の人いないよね?
「学校に行くの? 証拠集めに?」
「ううん。忘れ物あったの思い出したの。だから、ついでに火事現場見ておきたいなーって」
「サキ。どっちがついで?」
「やだーわかってるくせにー」
 屈託なく笑う様子はかわいいと形容していいと思うのですが、言っている内容からすれば……何故でしょう、ヴィルやティルアよりも性質が悪いと思うのは。
 先生と一緒に行く理由は学校は休みだからでしょう。先生の監視下なら休日の学校に入ることも出来なくはない、と。
 僕に話をふった理由は……単純についてきてほしかったから、と自惚れてもいいんでしょうか? いえ、やっぱり僕が疑われたから真相を知りたいと思っているのでしょうか?
 どちらにしても。
「わかった。ちょっと待ってて」
 付き合わないなんて選択肢はないんですけどね。

「うわー人いない学校って新鮮ー」
「こうしてみると結構広いよな、ここ」
「左に行けばいいんだよね?」
「ううん。本校舎の裏から行くほうが近道だったりするの」
「へーすごーい」
「君たち……もう少し静かにしなさいネ?」
「「はーい」」
 返事だけはいいですよねサキもティルアも……ヴィルは返事すらしなかったけど。
 ため息もつきたくなります。ええ本当、どうしてこうなった。
 うちを出た時には当然僕とサキと先生の三人だったのですが……学校に着くまでにまずティルアに見つかり、校門前で何かをたくらんでいたヴィルにつかまりました。
 何でよりにもよってこのタイミングなんでしょうね。
 僕と同じく嫌そうな……疲れた顔をしていた先生は開き直ったのか、遠い目をしています。
 ティルアのはしゃぎっぷりも分からなくはないんですけどね。
 人のいない学校は少しわくわくします。昼間で明るいからそういっていられるのかもしれませんけど。
 向かう先はもう一直線に火事の現場です。サキは忘れ物をしたといっていましたけどそっちはどうでも良いみたいな感じです。分かっていたことではありますが。
 火事の現場は確かにあの告白スポットでした。
 地面には焼け焦げた跡があり、その近くの校舎の壁も一部が煤けています。
 周囲にはロープが張られているだけで見張りも誰もいません。随分適当だなと思うのは、兄さんたち本職の警官の仕事ぶりを知っているからでしょうか?
「……結構燃えてる」
「あれだけ煙が立ってたからねー」
「はいはいそれ以上近づいちゃダメですヨ」
 不用意に近づこうとしたヴィルをとめてくれたのはフェッリ先生。
 ヴィルは不満そうな顔をしているけど、止めて当然です。
 だってここで怪しいことをしていたとなったら、今度はヴィルが疑われることになります。
 あ、そういえば、ティルアからもらったアロマキャンドルを灯してみたのもこの辺りでした。……あれ?
「この香り……」
「アル?」
「どしたの?」
「サキ、ティルア。この香り、あのアロマキャンドルじゃない?」
「え?」
 そう、この妙に甘い香りは多分。
「あ、確かにそうかも」
「アルって妙なこと覚えてるわよねぇ」
 ティルアが呆れたように言いました。でも、僕はそれどころじゃありません。
 だって、普通香りというものは時間がたてば消えるものです。ましてここは野外。風が吹けば香りなんてすぐに飛んで行ってしまう。つまり。
「ついさっき、あのキャンドルが燃やされてた?」
「そういうことでしょうね」
 僕の言葉を肯定したのはフェッリ先生。それでヴィルたちも気づいたようです。
「火事の現場でキャンドル燃やしたってか? 酔狂なやつがいるもんだな」
「えーでもこれってきっと一本や二本じゃないわよ? これだけ香りが残ってるんだもの」
 そう、ティルアの言っていることは確かでしょう。僕たちがここでキャンドルをともしたときにはこんなに香りは強くなかった。だから。
 その可能性に思い当たって、慌てて携帯を取り出します。
「アル?」
 呼び出しのコール音がもどかしいです。早く早くっ
『アルトゥール?』
「兄さん! 今学校なんだけど」
「アル?」
「なんでルッツさんに電話してんだお前?」
 うるさいです外野。いいから黙っててください。
『何をしに行ってるんだお前は』
 呆れた声。休みなのに何をしてるんだってことなんでしょうけど、そうじゃなくて!
「昨日話した火事の現場にいるんだ! あのキャンドルの香りがしてる!」
『なに?』
 我ながら随分省略した説明ですけど、兄さんは分かってくれたようです。
 逆に、ここにいるヴィルやティルアは分からなくてきょとんとしてますが。
「ちょっとアル、どういうことよ?」
「そうだ説明しろ」
「僕もよく分からないけど、ティルアがくれたあのキャンドル、あんまり良いものじゃないみたいなんだよ」
「ウソっ」
「嘘なもんか。兄さんが調べてるんだよ?」
「ほー警察が?」
 あ、先生がいるんだった。ていうか、先生なんで兄さんが警察官だって知って?
 ……もしかして本当に兄さんを脅してるの先生?
『他に誰かいるのか?』
「え? ええっと……ヴィルとティルアとサキと……先生が」
『教師がいるのか? ならちょうどいい、代われ』
 ああああっ やっぱり!
 代わっていいんでしょうか? いえ、代わらないわけにもいかないことは知っていますが。
 しぶしぶ先生と代わります。ちゃんと兄さんが話があることを知らせて。
「どうも。シルヴィオ・フェッリと申します」
 ああ、先生なんか楽しそう。いや、この先生はいつもこんな感じでしたね。
「ふん? ああ、確かにサンゴーの香りですネ。でもそれが何か……
 ああ薬事法」
 薬事法? あれやっぱり何かまずいものだったのでしょうか?
「なるほどねぇ。では要請します。え? 大丈夫ですよぅ。何せこのワタシの要請ですからネ?」
 何がどう大丈夫なのかは分かりません。
 でも携帯が僕に帰ってくる前に通話は終了されてしまい、兄さんがここに来ることだけを告げられて、僕ら五人はこのまま待機し続けたのでした。