【番外編】 導きの、星
「おや、小さなお嬢さん。珍しくいい星をお持ちだね」
それは、言われなれた言葉。
いい星を持っている、いい星の下に生まれた。
もしそれが本当なら……どうして自分はこんな目にあっているんだろう?
攫われることも命を狙われることも珍しくはなくて。
今なんて、目も見えないっていうのに。
これで、本当にいい星なんだろうか?
「いい星だよ」
そう繰り返すおばあさんに、少し拗ねて、どうしてと問いかける。
「周りにいい影響を与えるんだ」
物分りの悪い教え子を諭す教師のようにおばあさんはゆっくりと話す。
「行きたい所へ連れて行ってくれる。
決心がつかないときに背中を押してくれる。
迷っているときに導いてくれる――そんないい星だよ」
「そうかしら?」
「そうだとも。
北極星があるだろう? あれと同じさね。あの星がいつも北を示してくれているからこそ、昔の旅人は無事に旅を続けられたんだからね。
特に船旅をする場合は大変だったろうよ。あたしの小さい頃なんか、今みたいに船も良くなけりゃ灯台も少なかったしね」
おばあさんの話は後半部分はほとんど聞いてなかったけど。
北極星と同じか。なら、そうかもしれない。
「じゃあ、わたしがいなかったら困る人って、たくさん出てくるのかしら?」
「そりゃあ出てくるだろうよ。
少なくとも、今の時点でもお父さんお母さんが困ってるよ」
だから、こんなところにいないで早く家に帰りなさい。
言葉にされない『言葉』がとても優しい。
「ねぇおばあさん、もう太陽は沈んでしまった?」
「いや、まだだよ」
もう少ししたら夕焼けだね。
その言葉に少し笑う。……自然に笑えたのは久しぶりかもしれない。
「それじゃあ、そろそろ帰るわ。
お日様を迎えてあげなきゃいけないし、一番星が迷って出れなくなってしまうかもしれないもの」
「なんだい小さなお嬢さん。もしかして本当に星の子かい?」
「ええ、そうよ」
誇らしい気持ちと裏腹に少しだけ胸を張る。
「わたし、星の子なの」
海の星に住む、極の星の末裔だから。
おしまい
20,000HITお礼フリー小説【ナビガトリア】verでした。コスモスがまだ小さい頃のお話。
ステラ・マリス、ステラ・ポラリス、ナビガトリア。ご存知「北極星」の別名です。