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ラブコメで20題

13.意外と大胆なのはお互い様です

 さて、下準備はだいぶ整った……はず。ほぼ間違いないだろうと確信を持っていえる。
 ならば、そろそろ行動に移すべきだ。
 足を動かし向かう先は憧れの先輩ではなく。
「君嶋君」
 かけた声に、不思議そうな視線が返る。
 放課後、当番制で回ってくる掃除当番中のこと。今なら他人に聞かれることもあまりない。
「ごみ捨てついでに、ちょっといーい?」
 二つあるゴミ箱を示せば、怪訝そうな顔ながらも彼は頷いた。
 よし、第一関門クリア。

「それで、何か用?」
 理由が分からず当惑している彼に、引き伸ばしても仕方ないかと咲那は本題を口にする。
「今週末から人気ご当地キャラのイベントがあるのしってる?」
「ご当地キャラって、ねこにゃんとかハリィさんとか?」
「そうそう。グッズ販売と展示とスタンプラリーやるんだって」
 たまたま仕入れたにしてはいい情報だったと彼女は思う。
 けっして多くはないお小遣いでは、遊ぶ先も限られる。
 入場料もワンコイン――雑誌一冊分くらい。映画よりはだいぶ安くて十分楽しめそうなイベントだし、良いの見つけたといってもいいだろう。
「で、興味ない?」
「いや別に」
「そっかー、明日香はこういうの大好きだからくるんだけどなー?」
 すげなく返す大和に対し、ある程度予想をしていた咲那はわざとらしくためいきつきつつそうぼやいた。
 もちろん隣の彼の様子を観察することは忘れない。ピクリと一瞬だが確実に固まったことも、何か言いたそうながらも黙っている様子も。
 だから――だからこそ咲那は誘う。
「どうする?」
「行く」
 此度の返答は心地よく、打てば響くように応えてきた。
 よしよしこれで第二関門クリア。
 上機嫌に歩き出す咲那の足取りは軽い。そりゃあもう軽い。スキップを始めそうなくらいに。
 そんな彼女を現実に戻したのは、思いもよらぬ大和の発言だった。
「力兄さんを誘えばいい?」
「えっ?!」
 ぐりんと慌てて振り向けば、なぜかびっくりしたような大和がいた。
 発言の主だというのに、まるで彼女の反応が予想外――いや、予想以上だったのだろう。
「だっ なっ」
 何かを言おうとするものの口からまともな言葉は出ずに咲那はうつむく。
 ななななんで?! わたしそんなにわかりやすかった?
「え? 違った? 潮崎さんが話しかけてくるなんて兄さんについてだと思ったんだけど……」
 続けて言われた内容に、咲那はがくりと肩を落とした。
 いや、まあ、同性の先輩方にはばれてるのは間違いないし? 明日香も察してないはずないだろうけど!
「……お願いします」
 弱弱しく言った咲那に大和はほっとしたように息を吐いた。

 さて、いろいろ……いろいろあったが、掃除もすんで部活も終わって。
 あらかじめ一緒に帰る約束を取り付けていた明日香と帰り道をのんびり歩く。
 一緒に帰る距離はそう長くない。せいぜい十分、信号にかかるともう少し、くらいの時間しかない。
 そのため咲那は速やかに本題を突きつけることにした。
「そういえば明日香、今週末暇?」
「なにかあるの?」
「人気ご当地キャラのイベント。ハリィさんいるって。行く?」
「行く行く!」
 きゃあきゃあ騒ぐ明日香のカバンにハリィさんキーホルダーがあるのは知っていた。文房具にもハリィさんのものがあるから好きだと知っていたけれど。
「あ、はるちゃん」
「なに?」
「山戸先輩呼んだほうが良い?」
「明日香?!」
 いきなり何を言い出すんだろうこの子は!
「だって一緒に遊ぼうっていえば、多分遊んでくれるよ?」
「いや、いいから。明日香は何もしなくていいから」
 けっして頓珍漢ではないけれど疲れることを言う明日香に、咲那は深い深いため息をついた。
 ので、大和が参加することは黙っていようと決めたのだった。

大和君と咲那ちゃん。 12.12.26

14.甘い言葉に騙されてみました

 ゆるきゃらのグッズが多いのだったり、人気があるということは一応……一応大和は知っていた。けれど……イベントでここまでやるとは思わなかった。
「え? 中で二手に分かれるんだ」
 入り口でもらったパンフレットには簡単な地図が書いてあり、どちらかの道しか選べないという。
「ねこにゃんかハリィさんか……」
「新旧ゆるきゃら対決みたいねー。明日香どっち行きたい?」
「ハリィさん!」
「そうよねー」
 ちらと咲那が大和を見る。
 言いたいことはわかる。
 ここで四人揃って行動しなきゃいけない理由はない。
 むしろ、咲那にしてみれば別行動を望みたいところだろう。大和も、どちらかといえばそちらが嬉しい。
 なら、ここで自分が誘えば。
「はるちゃんはねこにゃん好きだよね」
「じゃあ潮崎行く?」
 言葉を発したのは明日香と力で、思わぬ申し出に咲那はぽかんと口を開ける。
「潮崎?」
「え? あ、はい! 行きます!」
「後でどんなだったか教えてねー」
 わたわたとねこにゃんの扉をくぐる咲那に明日香がエール代わりに声をかけた。
 予想外にすんなりいって、大和は拍子抜けした……したが。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
 そう誘えば彼女が頷いてくれたので、まあ良しとした。

「ごめんね、巻き込んじゃって」
「え?」

 唐突な言葉に大和は目を瞬く。
「誘ったの、はるちゃんでしょ? 力お兄ちゃん怒らないかな」
 ぽつりと呟かれた言葉に軽くめまいがした。

 思ってもみなかった言葉に咲那は息を呑む。
 なんだろう? なにか、間違ってしまったのだろうか?
「大和に協力してあげたくてね」
 くすくす笑いながら力は言う。
「明日香ちゃんはどう思ってるか分からないけど、チャンスくらいはあげたいし」
 楽しそうな口調に、先ほどとは違う意味で混乱する。

 つまり、この人たちは……分かれた相手側にデートをさせるつもりで、参加したということ?

 どう言ったものかと大和は考える。
「怒ってはないと思う、よ。楽しそうだったし」
 とりあえず思いついたことを言えば、明日香はほっとしたように笑う。
 ぱちりと瞬きをしたかと思えば、満面の笑みを浮かべて駆け出す。
「ハリィさんだーっ!!」
 きゃあきゃあ騒ぎつつ駆け寄ったのは、ハリィさんの等身大パネル。
 ここぞとばかりにPRされるグッズの数々は明日香からすれば宝の山らしくとても幸せそうだ。
 きゃいきゃい騒ぐ明日香が眺めているパネルの足元を見れば、どうやら写真撮影可能らしくカメラのマークに丸がしてある。
「写真撮ってあげようか?」
「え? でもカメラない」
 提案に惹かれてはいるのだろう。残念そうな明日香に、大和は携帯電話を取り出してみせる。
「これでよければ」
「後でデータもらえる?」
「いいよ」
 さっそくパネルのそばに立つ彼女をカメラ機能を起動させて写そうとする大和だったが。
「よかったら撮りましょうか?」
 かけられた声に慌てて振り向けば、高校生くらいの女子のグループがにこやかに手を差し出していた。
「え……いいんですか?」
 にこやかに頷かれて迷ったものの携帯をわたして移動する。
「撮りますよー」
 親切な人の声にあわせて笑顔を作る。
 携帯に残ったデータは、今日のいい記念になりそうだ。

「そうですね。いい雰囲気になってるといいですね」
 とりあえず咲那は同意した。
 デートみたいですねって冗談半分に言ってみようなんて思ってたけど止めたほうがよさそうだ。
「潮崎は優しいな」
「え? そーですかねー?」
 笑顔で優しい言葉をもらったから、まあいいとしよう。
「お、ねこにゃんのパネルだ」
「意外とおっきいんですねー。ぬいぐるみもたくさん」
「今も人気なんだな」
 感心したように言う力に咲那も同意する。
 ゆるきゃらはそれなりに好きなものもあるが、明日香ほど好きなものがあるわけじゃない。物珍しさにちょっと興味を引かれただけ。
 力がちょっぴり時間をかけて展示を見ているのは従弟を考えてのことだろう。
 時間をかけてみていくことに咲那も異存はない。だってそれだけ力といる時間が増えるから。
 二人して展示物に感心したり眺めていると、ふと声が聞こえた。
「ね、ね、あそこ見てみて可愛い」
「ほんとだ中学生くらい? デートかな?」
 ぼっと顔が熱くなる。自分たちのことを言ってるかどうかなんて分からないけど、どうしても都合のいいように考えてしまう。
 周りからそう見られてるんだもんね、期待していいよね。今は――だまされていよう。

力君と咲那ちゃんと大和君と明日香ちゃん。 13.1.2

「ラブコメで20題」お題提供元: [確かに恋だった]