巡って戻る
『はあ?』
とてつもなく場違いな……いや、予想もしなかったことを聞いたとばかりに聞き返す相手。
眉をひそめ、端正な顔を歪めるのはディスプレイに映された男性の姿。
彼を困惑させたのは、人ではありえない左右対称の美貌を持つ女性。
『何を言い出す、ラヴェンダー』
「そんなにおかしな事か?」
問われた相手は不思議そうに問い返す。言葉上だけは。
表情も声音もそう変わらないゆえに、断言は出来ないのだけれど。
「人型として作られていたならば、最強といわれているのだろう?
だから見せろ」
どうやって相手を攻撃するか。
そう続けられ、男の眉根がさらに寄る。
面白くもない話だ。
この女と話す機会はあまりない。
同じA-ナンバーズの一員というただそれだけのつながりだからだ。
自分は電脳空間から出ることは出来ず、女はこちら側へ来ることができない。おまけに『仕事』を持っているが故に、ここ――アトランダム本部にもそういないからだ。
それがいきなり、どうしてこうなる?
『何故俺様がそれをする必要がある』
当然のことを問い返せば、表情を変えぬままに答えられた。
「必要はないな。見せるつもりはないのか?」
『頼みならそれらしい態度をとらんか!』
怒鳴ってみせると初めて表情が変わる。
瞬きひとつだけという、ほんのかすかなものだが。
「そうか、頼めば見せてくれるのか」
どうやら納得したらしい。疲れる。とことん疲れる。
仕事は出来るがとてつもないマイペース。こいつの『弟』がこちらに関わろうとしなければ、こいつ本人との関わりも薄くて済んだろうに。
いや、最初から話などしなければ良かったのだ。
『……考えてやらんこともない』
捨て台詞のように告げて姿を消す。慣れた場所へ――電脳空間へと戻る。
後日、現実空間での体が出来た際にも、それは繰り返された。
「なんだ、人型にならなかったのか」
「俺様の勝手だ」
だから――
「俺様のように戦い方を教えるかは別として、強いのは間違いない」
面倒な『弟子』の世話を任せた。
ひょっこり出てきたテキストファイル。なつかしのツインシグナル。コードとラヴェンダーのお話でした。