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スコラ マグス

誇れる自分でありたい

 それはきっと彼にとっては何気ない感想だったのだろう。
「髪、伸びたな」
 三年ぶりに会った幼馴染からいわれた言葉をどう解釈したのか、彼女は翌日髪をバッサリ切っていた。
「アリエル?!」
 我ながら、悲鳴のような声だと思った。
「おはようクルト」
「おはよう……どうしたの、髪」
「切った」
「見ればわかるよ?! そうじゃなくて、どうして突然」
 昨日までは腰に届くかというくらい長かった金茶の髪が、肩口で揺れている。
 綺麗だったのに。
「さすがに伸びたかなって思って。入学式が明日だから、ちょうどいいかなって。
 ……そんなに似合わない?」
「ううん、かわいいよ。
 ただアリエルが髪を短くしてるのってみたことなかったから、慣れないだけ」
「そう」
 毛先をつまんでみせるアリエルは、三年前よりも可愛らしいと思う。
 少し後ろで、呆然と立ち尽くしている発言の主を見やって、クルトはこっそり問いかけた。
「ディノが言ったから?」
「まさか」
 心外だというように返すアリエル。
「切ろうと思ってて、でも美容院探すの面倒だなって、ずっと先延ばしにしてたの。
 そういう意味ではいいきっかけ?」
「そう……」
 こてりと首をかしげて応える様子にクルトは力なく返す。
 ディノは相変わらず固まっている。
「綺麗な髪だったから、ちょっと残念だな」
「PAに入るなら運動とかきついから邪魔になるかなって思ってたの。
 あとは、願掛け、かな」
「願掛け?」
「うん」
 こくりと頷いてほのかに笑うアリエル。
 見慣れない笑顔に、クルトの心臓がいつもと違う鼓動を打つ。
「高校生になるんだから、今までと違う、変わったっていう証が欲しいなって。
 これなら、すぐに変わったってわかるでしょ?」
「……うん」
 転機はあの日。
 生まれ育った町が魔法犯罪に巻き込まれた事件。
 あれ以来、ディノもアリエルもクルトもPAの入団を目指した。
 その一歩を踏み出すのは。
「明日かぁ」
「明日だね」
 感慨深く呟くクルトにアリエルが同意する。
 三年の教育期間を経て、ようやく入団試験を受けられる。
「頑張ろうね」
「うん、負けないから」
 未だ固まったままの一人を除いて、幼馴染たちは顔を見合わせて笑い合った。

この道を歩くと決めた、あの事件を思い出すのは嫌だけど。変わっていきたい、いけるはず。
心機一転、さあがんばるぞ。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/