1. ホーム
  2. お話
  3. PA
  4. 普通でいさせて
PA

普通でいさせて

 『特別』になりたかった。
 小さいころ憧れたテレビの中のヒーローは、選ばれた存在だった。
 代々引き継がれてきた伝承とか、秘められた力とか。
 君は選ばれたんだ、みたいな、そんなものに憧れていた。
 うん、過去形なんだ。

「なんですかコレ」
 思わず敬語になってしまう。
 ちょっと宿題見せてもらおうかなーなんて軽い気持ちでやってきた友人兼上司の部屋の片隅に鎮座ましますは、おどろおどろしい箱。
 ぱっと見は骨董品なんかが入ってそうな木箱だけれど、これでもかとばかりに貼られた札や頑丈そうな紐で括られた様子を見れば、いわくがないなんて思えない。
「ああ、道路工事してたら出てきたんだと」
 壊れなくてよかったよなーと、まるで普通の骨董品のことのように言うシオン。
「いやいやいや! 明らかにこれおかしいだろ?!」
「そりゃあ呪われてたりはするだろうけど」
 協会の中なんてこんなのごろごろ転がってるじゃないかと納得いかなそうな顔をする、超有名人を祖先に持ち、本人もまたたぐいまれな才能を持つ、いわゆる『選ばれた人』。
「協会内ならわかるけども! なんでシオンの部屋にあるんだよ?!」
「一時預かり中。明後日に大叔父さんが家に持っていくらしいから」
 その答えにカクタスは口を開けなかった。
 シオンが言ったように、確かに魔法協会やここPAには危ないものがごろごろ転がっている。けれどもそれらは厳重に保管されているのが通例で、こんな風に置いてていいものじゃない。
 前に人伝の噂として聞いたことがある。
 シオンの家には、協会では管理できないと判断されたものが保管されていると。
「お前の家、こんなの持って行って大丈夫なのか?」
「うちの歴史知らないわけじゃないだろうに。このくらいのなら山ほどあるぞ」
 なんてことないように返されて、ああ噂ほんとうだったんだーと遠い目をしながら思う。
 やっぱり、シオンの認識はずれている。
 彼が言う『一流の魔導師』は、世間一般では『超一流の魔導師』であり、『よくある呪いの品』は『よくあっちゃ困るレベルの呪いの品』なのだ。
 協会でもPAでも、カクタスの評価はシオンの弟子(おまけ)
 昔あこがれたヒーローたちは、いわばシオンのような存在と言っていいかもしれない。けれど、憧れるかというと……
「とりあえず、それどこかにやるか、こっち来てください。近づきたくないです」
「……行くけどさ。他人の部屋のドア勝手に開けるなよ?」
「こんなのあると知ってて入らないよ! 扉は開けるけどさ!」
 ぎゃいぎゃい言いつつも、なんとか勉強を教えてもらえる約束を取り付けつつカクタスは思う。
 うん、やっぱり普通が一番いいや、と。

認識がずれている自覚はあれど、ずれにずれまくっているシオンと、それに突っ込みをいれるカクタス。
女子組もずれているか、我関せずなので、実はチーム一の常識人兼一般人代表だったり。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/