堪え切れない衝動
遠くからわざわざ訪ねてみれば、相手は熟睡中だった。
薄はすでに遊びに出かけた。桔梗と会う約束をしているらしい。
シオンたちはまだ学校で、アポロニウスは夕方まで休みと聞いたから、こうして部屋に来たのだけど。
足音を殺して近づけば、意外にあどけない寝顔と目の下の濃い隈が見える。
それを見つけてしまえば日頃の苦労が伺えて、起こすのも悪い気がしてきた。
元々、連絡を入れてきた訳ではないから、空ぶったとしても仕方のないことだし。
また出直してもいいのだけれど、一人でうろつくとあちこちからの小言がうるさい自覚はある。なので、ここにいるしかない。
そう自身に言い聞かせて、コスモスは仕方なくテーブルに突っ伏したままのアポロニウスのそばへ腰を下ろした。
ちらと横から眺めてみれば、かの人は良く眠っているのか、まったく反応を示さない。
とりあえず、右手に握られたままのペンをそっと引っ張ってみれば、力は入っていなかったのか、すんなりと外れた。
これは本当に熟睡しているとみて良いのだろう。だとするとちょっとしたいたずら心が湧き上がる。
書類仕事をするのに邪魔だったのか、珍しく結わえてあった髪ゴムを外し、顔の横あたりだろう一房を手に取る。
見た目の予想通り、彼の髪はさらさらしていた。
指通りもいいし、一本一本が細いのか、癖のある自身の髪と質を変えてほしいくらい。
そんなことを考えつつ指を動かす。
ここはスタンダードに三つ編みだろうか? 両側で編んで後ろでまとめてもいい。
声は出さぬように笑いつつ、コスモスは考える。
人の髪で遊ぶのって、どうしてこんなに楽しいんだろう!
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「どうしたんです、その頭? コスモスさんが?」
「ベルたちを思い出して、やめさせるのも……」
「意外と似合ってますよ?」
最初から起きていたアポロニウスでした。